静岡新聞 時評(2022年8月25日)

御嶽山訴訟の判決

 気象庁の実質的敗訴

小山真人(静岡大学未来社会デザイン機構教授)

噴火警戒レベルを1のまま据え置いたことにより、結果的に2014年9月の御嶽山噴火災害を招いた気象庁。その責任が問われた国家賠償請求訴訟の第一審判決が7月13日に下された。原告である遺族側の請求が却下されたため、表面的には国側が勝ったように見えるが、判決の中身を読めばそんな単純な話ではないことがわかる。

原告は、活発な地震活動が生じた直後の9月12日、低周波地震が起きた14〜24日、地殻変動の可能性が指摘された25日の計3回の機会がありながら、レベルを1のまま据え置いた判断が著しく合理性を欠いて違法であると主張した。判決は、これらの原告の主張をおおむね受け入れ、気象庁内での検討時間の短さや対応内容に疑問を呈した。しかし、前2者については不合理であるが違法とまでは評価せず、25日の対応のみを違法と判断した。

判決は、噴火警戒レベルにもとづいた火山防災システムの根幹に関わる判断も下した。裁判の中で気象庁は、国民の生命・身体を保護すべき法的義務は災害対策基本法にもとづいて市町村長が負うものであり、レベルの引き上げに失敗しても気象庁職員の判断が違法になることはないと主張していた。しかしながら実際には、各地の火山において噴火警戒レベルは地域防災計画に組み込まれ、具体的な防災対策に細かくひも付けされている。したがってレベルが上がらない限り、市町村が立ち入り規制等の対応を独自の判断で実施することは難しく、原告もそう主張していた。

この点についても判決は原告の主張を認め、噴火警戒レベルは単なる情報の提供にとどまらず、地元の火山防災システムの中に独占的に組み込まれているため、気象庁の過失責任を問えると判断している。

以上のように、今回の判決では原告の主張の多くが認められており、気象庁にとって深刻な内容となっている。それにもかかわらず原告の請求棄却となったのは、25日時点で十分な検討をしたとしても立ち入り規制が27日の噴火に間に合ったとは言えないため、気象庁の違法な対応と噴火災害との直接の因果関係がないと判断されたためである。しかし、噴火が数日遅れたら結果は違ったわけなので、気象庁は実質的敗訴と受け止め、噴火警戒レベルの制度見直しに取り組んでほしい。

 


 

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