静岡新聞 時評(2022年6月30日)
小山真人(静岡大学未来社会デザイン機構教授)
63名の犠牲者を出した2014年9月の御嶽山噴火から今秋で8年となる。噴火警戒レベルが1のまま災害が生じたため、遺族らが気象庁の責任を問う賠償請求訴訟を起こしている。7月13日の判決に注目したい。
噴火警戒レベルは、特定火山の危険度を1〜5の数字で表す。各レベルにはキーワードが付されており、2014年当時のレベル1のキーワードは「平常」であった(現在は「活火山であることに留意」に変更)。噴火警戒レベルは地元自治体の防災対策にひも付けられ、各レベルに応じた具体的対応が地域防災計画などで定められている。御嶽山ではレベル2で山頂周辺が立ち入り規制となるため、レベルを上げておけば災害は起きなかった。
ところが、噴火17日前の9月10日に山頂付近の地震回数が増加し、翌日にかけてレベル2の引き上げ基準のひとつに達しても、気象庁はレベルを1に据え置いた。当時のレベル判定基準には他の観測データ等も踏まえて「総合的に判断する」と書かれていたからだ。訴訟では、この判断に過失が無かったか否かが問われている。
どのような判決となるかは見通せないが、噴火警戒レベルの信頼性が低いことは間違いない。なぜなら、他の火山でもレベルを上げたのに噴火しなかった事例や、レベルを上げないまま噴火した事例が多数あるからである。
噴火警戒レベルは、火山学者たちが信頼性への疑問を表明する中で2007年末から導入が始められ、現在は日本の111活火山のうち49火山で運用されている。たしかに避難計画を立てる上で噴火警戒レベルは有用なシステムである。しかし、それはレベルの信頼性が高いことが前提であり、現行の噴火予知技術がそれを満たしていないことは導入前から指摘されていた。つまり、レベル判断の失敗によるリスク(過小判断による災害リスクだけでなく過大判断による経済リスクもありえる)は、当初から見通されていたと言ってよい。
御嶽山訴訟の判決いかんにかかわらず気象庁に強く望みたいのは、みずから噴火警戒レベルの的中率やその功罪を検証することである。そして、その結果を受けて制度や運用を見直してほしい。また、火山の地元自治体は、噴火警戒レベルの信頼性の低さを前提とした柔軟な火山防災体制を再構築してほしい。