静岡新聞 時評(2022年4月28日)
小山真人(静岡大学未来社会デザイン機構教授)
富士山のハザードマップが昨年3月に大幅改定されたため、それを元にした避難計画の改定作業が始まり、先月その中間報告が公表された。
火山の噴火では多様な現象が発生する。すぐに安全な場所まで避難しないと命にかかわる火砕流などの現象がある一方で、ある程度の時間的余裕をもって避難の必要性や方法を判断できる溶岩流や降灰などの現象もある。
これまでの避難計画は、富士山周辺を5つの避難対象エリア(第1〜3次、4次A、4次B)に分け、それぞれの対応を定めていた。このうち1次エリアは最も山側にあって火口となりうる範囲、その外側を取り巻く2次エリアは噴火後すぐに避難が必要となりうる範囲である。1次エリアのどこが火口になるかは噴火前にわからないため、噴火が差し迫ったと判断された場合は1〜2次エリアの全住民約1万6千人を車でエリア外に避難させるのが当初の計画であった。
ところが、ハザードマップ改定によって各エリアの範囲が広がり、1〜2次エリアの人口が約7倍の11万6千人となった。そこで実際に避難完了までの時間を計算したところ、場所によっては渋滞のために車避難が徒歩避難の数倍かかり、移動中に被災しかねないことが分かった。
そのため2次エリアを2つに細分し、火砕流などの高速現象が到達しうる範囲を新2次エリア、その外側の溶岩流が3時間以内に到達しうる範囲を新3次エリアとして、旧3次エリア以降の番号を4次〜6次に付け替えた。これによって1次+新2次エリアの総人口は5500人となり、車でのすみやかな避難が可能である。問題は約11万人が居住する新3次エリアであるが、平地での溶岩流のスピードは速くても人が歩く程度であり、近くの高台などに徒歩で避難できる。よって、新3次エリアを一律に車避難としていたこれまでの原則が徒歩避難に改められた。
なお、高齢者などの徒歩移動困難者や、山側にあって避難時間に余裕がない地区は、従来通りの車避難が可能である。また、住民全員の事前避難は、噴火前の予防的対応である点にも注意してほしい。噴火が始まって火口位置が確定した後は、多くの住民が状況をみながら帰宅することになる。ハザードマップで自分の居場所のリスクを確認し、そこからの避難を今一度イメージしてみてほしい。