(火山噴火予知連絡会会報no.78,125-133,2002)

2000年8月の三宅島に関する火山活動評価・情報伝達上の問題点

小山真人(静岡大学教育学部総合科学教室)

Unsuccessful risk evaluation and communication during the crisis of
Miyakejima Volcano in August, 2000

Masato Koyama
Department of Integrated Sciences and Technology,
Faculty of Education, Shizuoka University

1.はじめに
 気象庁は,4種類の火山情報(緊急火山情報,臨時火山情報,火山観測情報,定期火山情報)を発表している.2000年6月26日夕刻から始まった三宅島の火山異常においては,とくに8月中旬以降,明らかに生命・身体にかかわる危険な状況が何度か発生した.それにもかかわらず,「生命,身体にかかわる火山活動が発生した場合に随時発表」されることになっている緊急火山情報は,6月26日の火山活動開始直後に出されたひとつを除いて,その後一度も発表されることがないまま現時点に至っている.2000年8月18日噴火にともなう降礫の危険な状況がその後の現地調査によって明白になっても,8月29日噴火によって海岸集落を飲み込んで海上に達する火砕流が発生しても,一般島民全員の島外避難は結局9月4日まで達成されなかった.
 筆者は,2000年8月21日以後,臨時委員として火山噴火予知連絡会伊豆部会(以下,予知連伊豆部会)での議論にかかわった.ある程度の内部事情を知る(が知り過ぎてもいない)立場から,また,自身の無力さへの反省もこめて,2000年8月の三宅島の火山活動評価と情報伝達のどこに問題があったかの考察を試みた.

2.2000年火山危機
 2000年6月26日18時30分頃から三宅島内に地震が多発するとともに,火山下へのマグマ貫入を示す地殻変動が観測され始めた.気象庁は,6月26日19時30分から29日にかけての8回の臨時火山情報と,6月26日19時33分の緊急火山情報を発表して注意を呼びかけた.予知連伊豆部会は6月26日深夜から29日にかけて6回のコメントを発表し,火山活動の状況と見通しを述べた.幸いにしてマグマは陸上に出ず,西方海底にわずかに噴出しただけで最初の事件は終了した.
 以上ですべてが終わったとみられた2000年噴火は,おおかたの火山学者の予想を裏切って,7月8日18時41分から10分間ほど続いた山頂での小規模な火山灰放出によって再開された.この噴火の直後から翌9日朝までの間に,7月8日噴火の噴出量をはるかに上回る容積の陥没孔(直径1km,深さ200m)が形成された.この陥没は,その後も必ずしも噴火をともなわずに断続的に進行し,8月上旬までに直径1.3〜1.4km,深さ450mに達した.しかし,山頂での噴火は,その後7月14〜15日にわたって断続的な火山灰放出があったのみで,8月10日までほぼ休止状態にあった.この間,気象庁は7月8日(3回)と14日に臨時火山情報を発表した.予知連伊豆部会は7月8日にコメント,10日,14日(2回),18日,21日,8月4日,8日に検討結果を発表した.
 8月10日06時30分から山頂で火山灰放出が始まり,6時間半ほど続いた.噴煙高度が8000mに達する爆発的な噴火であった.気象庁は8月10日10時50分に臨時火山情報を発表して噴火への注意を呼びかけ,15時15分には予知連伊豆部会の検討結果が火山観測情報として発表された.8月10日の後,山頂カルデラ内を起源とする噴火(火山灰放出)が断続的に生じる状態となった(ただし,火山灰放出は9月中旬以降は下火となり,その後は主に火山ガスの放出のみが続いている).
 8月18日17時02分から1時間半にわたって最大規模かつ最も激しい噴火が生じ,噴煙高度は1万4000mに達した.噴火にともない直径数cmの岩片が島の南半部集落に降り,それによって多数の自動車のガラスが損壊した.また,直径数十cmの岩塊が島の北西海岸付近の都道にまで飛んだ.
 気象庁は8月18日17時20分に臨時火山情報を発表して噴火への注意を呼びかけるとともに予知連伊豆部会を招集したが,情報不足のために十分な検討はできなかった.主に8月18日噴火による厚い降灰とその後の降雨による二次泥流によって全島が悲惨な状態に陥り,島外に自主避難する住民が増え始めた(早川由紀夫のまとめ http://www.edu.gunma-u.ac.jp/~hayakawa/news/2000/miyake/topics/kanden/exodus/index.html によれば,三宅島住民3855人のうちの2500人が9月1日までに島外への自主避難を終えている).気象庁は,8月21日と24日に予知連伊豆部会を招集し,8月18日噴火のさらなる検討や推移見通しの議論をおこなったが,その検討結果は降灰・降礫・泥流に注意を呼びかける臨時火山情報として21日と24日に発表された.
 8月29日04時35分から1時間にわたって大規模かつ激しい噴火が起き,噴煙高度が8000mに達するとともに火砕流が発生した.火砕流はおもに北東と南西方向に流走し,北東のものは神着地区の集落を飲み込んだ上で海に達し,さらに海上を数百m流走した.幸いなことに,この北東方向の火砕流の海岸付近における速度・温度はともに小さく(火砕流の西端部分に覆われた三宅島測候所での温度は約30゚C),火砕流に飲み込まれた家や自動車の中にいた人間は無事だった.
 この噴火の発生にいたり,東京都は6月30日に解散したままになっていた災害対策本部をようやく再設置し,政府も非常災害対策本部を設置した.気象庁は8月29日05時20分に臨時火山情報を発表して噴火への注意を呼びかけ,8月31日には予知連伊豆部会を招集し,8月29日噴火の分析と推移見通しの議論をおこなった.この予知連伊豆部会の見解文には,火砕流に対して「警戒」の2文字が初めて入れられた(降礫・泥流・火山ガスについては「注意」)が,臨時火山情報として発表された.その後の経過については周知のことなので,ここでは省略する.

3.気象庁と火山噴火予知連絡会
 問題点の分析に入る前に,火山噴火予知連絡会(以下,噴火予知連)の性格・役割,ならびに気象庁の発表する火山情報について簡単にまとめておく.

 1)噴火予知連の性格と役割
 測地学審議会の「火山噴火予知計画の推進について」の建議(1973年6月29日)の中に「火山噴火の予知に関する観測情報を交換するとともに,それらの情報の総合的な判断を行い,かつ研究・観測の体制を調整し,それぞれの立場における研究及び業務を円滑に進めるために,大学・気象庁及び関係省庁間に火山噴火予知連絡会を設け,事務局は気象庁におく」とあり,実際にこれに沿う形で,噴火予知連が気象庁長官の私的諮問機関として1974年6月20日に設置された1)
 噴火予知連の運営要綱は,運輸事務次官から総理府総務副長官・科学技術庁事務次官・文部省事務次官・建設省事務次官の4者に宛てられた1974年6月20日付の文書の中に示されている1).その要項第2項によれば,噴火予知連の任務は以下の3つとされている.
(1)関係諸機関の研究及び業務に関する成果及び情報を交換し,それぞれの機関における火山噴火予知に関する研究及び技術の開発の促進を図ること.
(2)火山噴火に際して,当該火山の噴火現象について総合判断を行い,火山情報の質の向上を図ることにより防災活動に資すること.
(3)火山噴火予知に関する研究及び観測の体制の整備のための施策について総合的に検討すること.

 2)気象庁の発表する火山情報
 気象庁は,気象業務法第11条(観測成果等の発表),ならびに活動火山対策特別措置法第21条(火山現象に関する情報の伝達等)にもとづいて,火山情報を発表している.火山情報には4つの種類がもうけられ,深刻さの順にそれぞれ緊急火山情報,臨時火山情報,火山観測情報,定期火山情報である.各情報がどのような時に発信されるかは,火山情報取扱規則第4条に定められている.臨時火山情報と緊急火山情報については以下である.

2 臨時火山情報の発表は、防災上注意喚起のため、次の各号の一に該当し、必要と認めるときに行うものとする。
(1)火山現象について異常を認めた場合
(2)市町村長から火山に関する異常な現象の通報を受けた場合
(3)運輪省の機関その他の機関から火山に関する異常な現象の情報を入手した場合
3 緊急火山情報の発表は、火山現象による災害から人の生命及び身体を保護するため、次の各号の一に該当し、必要と認めるときに行うものとする。
(1)火山の噴火に伴う溶岩、噴石、火山れき、強酸性の湧水、有毒ガス等の噴出により、直接人体に被害が生じ、又は生ずるおそれがある場合
(2)火山の噴火に伴う溶岩、噴石、降灰等により人が居住し、又は滞在する建物等に損傷を加え、そのため人体に被害が生じ、又は生ずるおそれがある場合
(3)火砕流、溶岩流、泥流を伴う火山噴火により人体に被害を生じ、又は生ずるおそれがある場合
(4)前各号のほか、火山性地震、地盤変動、その他火山現象の推移により人体に被害を生じ、又は生ずるおそれがある場合

 すなわち,緊急火山情報は生命・身体に関わる火山活動が発生した場合,またはその恐れがある場合に発表され,臨時火山情報は火山活動に異常が発生し,注意が必要な時に随時発表されることになっている.また,緊急火山情報については,関係都道府県知事への通報義務が同規則第6条に記されている.
 臨時火山情報と緊急火山情報の発表に関しては,さらに細かな取り決めが火山情報取扱要領第2.2.1項に記されており,次の項目について考慮の上おこなうものと定められている.
(1)火山現象の状況・推移
(2)既に発表した火山情報の内容・時期
(3)部外機関からの情報の内容・収集の状況
(4)防災関係機関の対応状況
(5)その他の状況
また,同要領第2.2.2項には「火山噴火予知連絡会による統一見解等を入手したときは,原則として臨時火山情報で発表する」との規定もある.
 火山情報は,あくまで噴火予知連とは独立に,気象庁が発表するものである.火山情報の種類選択についても気象庁が独自に判断しており,どれを選択すべきかの議論が噴火予知連の中で公式になされることはない.
 火山情報の通報を受け取った地方自治体は,活動火山対策特別措置法第21条(火山現象に関する情報の伝達等)にもとづいて,関係機関・団体・住民への通報・警告や要請などの必要な防災措置をとることになっている.具体的には,それぞれの自治体において,上記4種の火山情報のそれぞれに対する細かな対応の取り決めがなされている場合が多い2)

4.どこに問題があったか
 1)現地情報の把握・活用の失敗

 今回の三宅島噴火において特に目立ったことは,インターネット上のホームページや掲示板において,住民個人や現地取材中の報道機関から準リアルタイムで豊富な現地情報や画像が発信されたことである.それらの中には,専門家の目で選別すれば非常に貴重・有用なものがあり,現地にいなくても噴火の状況が手に取るようにわかる時期もあった.しかしながら,気象庁と予知連伊豆部会は当初それらの情報を十分把握したり,状況判断に活用したりすることができなかった.それらの実例を以下に述べる.

 8月10日および18日火砕サージ(または火砕流)
 8月10日の激しい噴火には火砕サージ(または火砕流)とみられる現象がともなったことが,ウェザーニューズのホームページに掲載された複数の噴煙写真や,島民が自宅に設置していたライブカメラの映像などから容易にわかる.アジア航測の藤田浩司は,これらの写真をもとに火砕サージの到達マップをつくってその到達距離(少なくとも1km)を割り出し,その計算過程と結果は8月16日18時10分に同社の千葉達朗が管理する掲示板「ある火山学者のひとりごと」(http://www.jah.ne.jp/~chili/camp/nagaya.cgi?room=005)に掲載された.しかし,気象庁は当初これらの貴重な情報を把握していなかった(あるいは,知っていたけれども裏をとったり分析したりする余裕がなかった).筆者は,これらの情報を8月21日の予知連伊豆部会において口頭で伝えたうえで,上述の写真とマップを8月31日の伊豆部会に資料として提出した.
 8月18日に起きた激しくかつ大規模な噴火にともなって噴火開始直後から火砕サージ(または火砕流)が発生したことが,島民が撮影した写真やビデオ画像からわかる(これらのいくつかはネット上に公開されている).ただし,流走方向や距離の詳細はデータ不足によっていまだに不明である.8月10日と18日に起きたこれらの流れ現象の詳細がきちんと把握されていれば,当時進行していた事態がより正確に評価され,多くの島民が8月29日のような無防備な状況に置かれることはなかったかもしれない.

 8月18日噴煙高度
 8月18日噴火は,高い噴煙柱を立ち上らせた.噴煙高度は,噴火の規模・強度,降礫・降灰災害の様相や程度を推定するための重要なパラメータである.当初気象庁は,三宅島測候所での目視観測データ以外の観測値を,公式な噴煙高度として認めなかった.しかし,直径8km程度しかない島内で8000m以上の噴煙高度を正確に目視測定することは,仰角が大きくなりすぎることと,噴煙の傘部分に噴煙の頂部がさえぎられることによって困難である.三宅島測候所が当初報告した「8000m以上」は,噴煙高度が目視測定の限界を越えたことを意味していた(このような重要な意味をもつ「以上」の2文字を落としてしまい,単に「噴煙高度8000m」と報道したメディアもあった).
 しかしながら,隣の御蔵島から撮影された噴煙写真が8月19日の東京新聞朝刊に掲載され,前出の藤田によって,その写真計測による噴煙高度1万5000mが計測方法とともに8月19日 20時55分にネット上に公開された(http://www17.freeweb.ne.jp/photo/kffujita/index.htm).また,気象庁には航空機に対して空中を浮遊する火山灰への注意を呼びかける国際情報ネットワークVAAC(Volcanic Ash Advisories Centers)の事務局のひとつが置かれており,衛星画像計測によって8月18日の噴煙高度をFL460=約1万4000m(FLはflight levelの略で1単位が100フィート)と公式発表していたにもかかわらず(http://www.ssd.noaa.gov/VAAC/OTH/JP/messages.html),気象庁は当初その値を火山情報に採用しなかった.9月中旬になって,8月18日の噴煙高度は(3000mと過小発表されていた8月10日の噴煙高度とともに)ようやく気象庁内部で見直され,当初の「8000m以上」から「1万4000m」に変更された.

 8月18日降礫災害
 8月18日噴火では,島の南半部の集落に殺傷能力のある火山岩片が多数降り注ぎ,北西側では都道まで火山岩塊が飛来するという危険な状況が出現した.三宅島測候所から情報を受けた気象庁は,臨時開催した予知連伊豆部会に小石降下の報告をしたが,伊豆部会では小石は火山豆石だろうと判断され,重視されなかった.火山豆石は噴煙中で細かな火山灰が凝集したものであり,密度・落下速度が小さいために危険性は劣る.ここで問題となるのは,火山岩片と火山豆石を区別して報告できなかった三宅島測候所と,確認がとれないまま火山豆石と判断してしまった予知連伊豆部会であろう.
 なお,8月19日の午前0時22分に,上述のネット掲示板に三宅島坪田の住民が自宅前から小石を採取し写真も撮影したとの情報が寄せられたから(さらに,小石同士をぶつけてもびくともしない硬さであるとの情報が19日08時25分に流され,小石の写真そのものが19日10時43分に掲載された),気象庁がこのような電子ネットワークをもっと柔軟に活用して情報収集と確認に努めれば,火山岩片か火山豆石かくらいは容易に判断できる程度の情報をすみやかに入手できたと思われる.

 開始が遅れた上空からの連続目視観測
 7月8日以来,三宅島山頂でただならぬ大規模な陥没現象が日々進行し,それと時期を同じくして傾斜計ステップ変動と長周期地震が繰り返された.また,8月10日以来,山頂で頻繁に噴火が繰り返され,カルデラ底の地形・様相・火口位置も刻々と変動した.このような事態に至ってもなお,自前の航空機をもたない気象庁は,上空からの山頂付近の目視観測を8月26日まで組織的に実施できなかった(8月26日以降は天候の許すかぎり,ほぼ毎日ヘリコプターを用いた目視観測がなされた).そのため,7〜8月の山頂付近の地形・地質学的変動や噴火の様子は,おもに報道機関のヘリがもたらす断片的な映像だけに頼った不十分な分析しかできず,傾斜計ステップ変動との同期性もからめた陥没・噴火メカニズムの検討や噴火推移予測の上での深刻なデータ不足がもたらされた.

 2)気象庁職員の専門性・マンパワーの不足
 気象庁は,三宅島測候所や本庁火山課への応援人数を増やしたり,さまざまな内規や対応の改善に努めたりして最大限の努力を注いでいた.それにもかかわらず,上述した例のような現地情報の把握・活用の失敗や遅れが生じた.
 気象庁の担当者たちは,増援されたにもかかわらず,能力の限界に達していたとみられる.そのことは例えば予知連伊豆部会の議事録作成の遅れにも表われた.予知連伊豆部会での議論は,毎回5〜6時間ときには8時間以上にも及んだ.各研究機関からの新たなデータ説明による現状把握に始まり,噴火メカニズムさらには推移予測の議論がおこなわれ,最後に検討結果をまとめた見解文を一字一句吟味した.2000年8月については議論がたびたび紛糾したから,検討過程をまとめた議事録はきわめて重要な資料であり,しかも後からの考察や検証にとっても不可欠の材料である.しかしながら,気象庁担当者への再三の要請や担当者たち自身の努力にもかかわらず,2000年三宅島噴火のクライマックス期間中におこなわれた3回の予知連伊豆部会(8月21日,24日,31日)の議事録は,翌年の4月25日までついに配付されなかった.
 上述したように,現地測候所の情報把握能力には問題があり,おそらく火山にかんする専門性やマンパワーの不足が足かせになったと思われる.また,本庁火山課においても,インターネットに流れる情報の収集・分析をする余裕はとてもなかったという.ここでも情報分析能力のもととなる専門性の不足,ならびに絶対的な(構造的な?)マンパワーの不十分さがあったと思われる.ちなみに,米国における火山観測調査と災害危機管理・軽減対策の実施機関である米国地質調査所においては,火山担当官80名のうちの75%が博士号を持った第一線の研究者であるという3)

 3)噴火予知連での議論の偏り
 前節で述べた噴火予知連の任務(2)には「火山噴火に際して,当該火山の噴火現象について総合判断を行い,火山情報の質の向上を図ることにより防災活動に資すること」とある.この目的もあって,噴火予知連の委員には気象庁のほか科学技術庁・国土庁・文部省(省庁改編にともなって2001年からは国土交通省,内閣府,文部科学省)のそれぞれの行政官も含まれている.事実として,過去に噴火予知連が発表した見解では,住民避難にかんする言及がなされたこともあった.
 しかしながら,2000年8月の予知連伊豆部会においては,ピュアなサイエンス(とくに噴火メカニズム)に関する議論が目立って多くなされ,現に生じつつあった個々の火山現象の危険性評価が不十分であったと思う.また,不明な点が多い噴火でありながらも,それらの観測・検討結果を防災に生かすためにはどうしたらいいかの議論もほとんどなされなかった.
 たしかに,火山の地下で進行中のプロセスそのものの根本的理解がなければ,精度の高い推移予測は困難である.そのためには,噴火メカニズムの議論にある程度の時間を費やすことは当然である.しかしながら,7月8日以来の三宅島噴火は,大量のマグマが能動的に動く(それゆえに観測・予測しやすい)噴火ではなく,すでにマグマの大半が別所に移動した後に残された高温岩体(あるいは残余マグマ)に水蒸気が絡んだ(それゆえに観測しにくく,規模・推移も予測困難な)噴火である.このような共通認識はすでに8月上旬までに得られていたのだから,噴火メカニズムやそれにもとづく推移予測の議論に結論を出すことの困難さは,ある程度初めから予測できた.
 それにもかかわらず,8月21日と24日の予知連伊豆部会においては,噴火メカニズムの議論に多くの時間が費やされ(用意された資料も圧倒的にその関係のものが多かった),結果的に8月10日や18日の噴火にともなった現象そのものの危険性評価がなおざりになってしまったと思う.
 たとえば,8月21日と24日の部会においては,8月18日噴火で集落に落下した火山岩片の直径や分布密度のデータがある程度明らかにされたのだから,岩片の落下速度やそこに人間がいた場合の殺傷可能性がきちんと評価され,検討結果に盛り込むこともできたはずである.さらに,8月18日と同程度の噴火があった場合には,噴火開始から何分くらいで噴火規模・強度の評価ができるか,噴火開始から何分くらいで集落付近に降礫が始まるか,山頂付近の地形から判断してどの方向の集落に危険性が高いか,降礫が始まるまでに屋内に避難できるか否か,家屋の屋根はどの程度の降礫まで耐えられるのか,屋内にたどりつけない人にどのような対策を施せばよいかなどが,科学的に議論されるべきであった.それらの評価ができれば,より合理的な避難地域・避難場所の指定や,あるいは全島避難の妥当性・必然性の有無がおのずとわかったはずである.
 実際には,上の評価には外科医療の知識,建物強度の知識,避難シミュレーションなどの防災工学的評価手法,危機管理の知識などが必要なものもあり,メンバーの多くが理学部出身の火山学者からなる現在の噴火予知連の能力を越えている(ただし,山頂地形の評価や,降礫の落下時間・落下速度推定など,火山学者にしかできないものもある).しかしながら,そのあたりは柔軟に考えて,厚生省や建設省(当時)や防衛庁の専門家に緊急的に応援を求めることもできたのではないだろうか.結果として,8月21日と24日の検討結果には防災判断に有効な結論はあまり盛り込めず,どちらも臨時火山情報として発表されたこともあって,多くの島民に8月29日噴火を現地で体験させてしまうこととなった.
 そもそも噴火予知連での会議スタイルそのものが旧態依然とした非能率的なものと感じる.各研究機関から提出された分厚い紙束資料が配付され,山となって机上を埋め尽くす.資料は機関ごとに綴じられた冊子となっており,一度見たデータを後から見つけ出すことにすら骨が折れ,資料同士の比較は容易でない.その後,研究機関ごとに資料説明が延々と続く.資料説明と現状把握に多くの時間が費やされ,議論の時間が圧迫される.先に述べたように,2000年8月後半の伊豆部会の議事録は当分の間配付されなかったから,議論の流れを後から振り返ることのできないまま,次の議論の機会を迎えなければならなかった.

 4)生かされない予知連見解
 上述したように,8月21日と24日の予知連伊豆部会の検討結果には,判明した事実についての詳細な記載はあるものの,噴火にともなった現象についての危険性評価が十分でなかった.しかしながら,どちらの見解にも「8月18日と同程度かこれを(やや)上回る程度の噴火が繰り返される可能性があります」との予測が明記されているし,8月24日の見解には「この間の噴火は,マグマや高温岩体と地下水との相互作用により発生していると考えられますが,このような噴火はマグマの顕著な移動は伴わないことから,一般的には予測は難しい」とも書かれていた.なお,それに続けて「急速に反転する傾斜変動の推移,大規模な噴火前の火山性地震や微動,山頂から放出される水蒸気や火山ガス等の監視解析で(噴火を)予測できる場合もある」という見込みが書かれていたが,あくまで「場合もある」であって,事前予測が保証されていたわけではなかった.
 8月21日の見解には「(8月18日の)火山灰は,ほぼ全島に降り,西側山麓で厚さ約10cm,その他の山麓では数cmから数mmでした.また,島の東側と西側の一部では5cm程度の噴石も混ざっていました.西側中腹では,直径50cm〜1m程度の噴石が広く落下していました」という事実の公表がなされ,降礫の分布図も記者会見資料として配られた.つまり,8月18日と同じ程度の噴火が繰り返された場合,海岸付近の集落に5cm程度の降礫があることは明白であった.空から降ってきた5cmの火山岩片に当たった場合に無事で済まないことは,誰でも容易に想像がつく.8月21日の予知連伊豆部会の後の記者会見において,井田会長自身も「直接当たれば致命傷になることもある」と解説した.
 つまり,そのような危険性評価を厳密に検討しなかった上に,たんなる「注意」表現の臨時火山情報として発表した予知連/気象庁にも問題があったが,そこに込められた情報や意味を検討し,独自の適切な危険性評価と防災判断をしなかった国土庁(当時)と都庁にもある程度の責任は問えるのではないだろうか.
 そもそも,なぜ8月21日と24日の予知連見解は,臨時火山情報として発表されたのだろう?8月18日の噴火は,公表された調査結果からみて,明らかに島民の「生命・身体にかかわる火山活動」であった.よって,「今後もそのような噴火が繰り返される」という可能性を明記しながら臨時火山情報として発表することには,論理矛盾があると思う.また,前節で述べたように,ふつう自治体は火山情報の種類に応じた防災対応をあらかじめ定めているから,臨時火山情報という額面を見て杓子定規的に対応することだってあり得るだろう.前節で述べたように,火山情報要領第2.2.2項には「火山噴火予知連絡会による統一見解等を入手したときは,原則として臨時火山情報で発表する」との規定もあるが,あくまで原則であるから緊急時は別だろう.
 前節で述べたように,火山情報の発表方法としてどの種類を選択するかは気象庁内部で決定され,その決定に噴火予知連は関与していない.後の関係者の談話でわかったことであるが,8月18日噴火の状況把握がすみやかになされれば,18日時点で緊急火山情報が出された可能性が十分あったという.ところが,8月18日の噴火は状況把握がままならないまま,約1時間半で停止してしまった.つまり,当面の危険が去ったために,緊急火山情報を出す機会を失ったのである.その後,8月21日と24日に開催された予知連伊豆部会においては,大規模噴火継続の可能性について委員の間で意見が分かれ,結論は持ち越しとなっていったため,気象庁としてはこの間も緊急火山情報を出す十分な根拠は得られなかったのだと思われる.
 8月29日の火砕流をともなう噴火も約1時間で終了したから情報把握が間に合わず,臨時火山情報での注意だけにとどまった.その後の8月31日に開催された予知連伊豆部会の見解には「火砕流に警戒が必要です」と書かれ,6月26日の緊急火山情報以来はじめて「警戒」の2文字が入った.さらに,この8月31日見解には「この噴火(8月29日噴火)の顕著な前兆は観測されませんでした」と明記されており,予知連伊豆部会が8月18日や29日規模の噴火を予知できる見込がないことを正式に認めたに等しいものであった.そういった深刻な内容にもかかわらず,この見解はまたも臨時火山情報として発表された.8月31日に緊急火山情報が出されなかったのは,前節で述べた火山情報取扱要領のうちの(4)防災関係機関の対応状況,および(5)その他の状況,が考慮された結果としか思えない.
 予知連伊豆部会には国土庁(当時)の行政官が委員として出席し,都庁の担当者もオブザーバーとして参加していた.気象庁の担当者たちは「火山情報の種類や,見解文の内容いかんにかかわらず,国土庁および都庁とは十分な協議をおこなって火山の状況を正確に把握してもらっている」という趣旨のことを述べたが,本当にそうだっただろうか?

 5)不適切な報道
 学者がジャーナリストに対して発した情報は,マスメディア内のシステムを通過して変質した後に,市民に伝えられることがしばしばある.これらの変質過程をつねに監視し,意見を述べることは,情報発信者の責任であり義務である.また,情報の変質過程や変質メカニズムについて考察することは,情報発信の仕方そのものを改善していくうえで重要である.
 三宅島2000年噴火にかんする報道,とくに噴火予知連見解に絡む報道はおおむね適切であったろうか.筆者にはそう思えない.とくに目だった誤解があったと思われる例を以下に挙げる.
  予知連伊豆部会においてマグマの深さや噴火メカニズムについて2つのモデル(地質調査所モデルと東大地震研モデル)が論争中との内容の報道が,8月下旬から9月上旬にかけて複数のマスメディアによってなされた.その際,2つのモデルのどちらかを選ぶことで結果が180度異なるような論調で報道されたことは,予知連伊豆部会での議論の内容を正しく反映していなかったと思う.このようなマスメディアの論調は,マグマの位置を若干深く考える東大地震研モデルが正しければ今後どうということはない,という油断を一般市民に与えたのではないだろうか.
 一例を挙げれば,2000年9月5日放送の NHKクローズアップ現代で,司会者は「マグマが下にあれば,終息していく.上がっているとすれば,噴火活動が長期化する.2つの異なった意見が出ているわけですけど...」とまとめた.たしかに8月後半に開かれた3回の予知連伊豆部会において,三宅島下のマグマ位置と噴火メカニズムにかんする学術論争がおこなわれたことは事実である.
 しかし,大事なことは,たとえマグマの位置が東大地震研モデルのように多少下にあっても,それは決してその後の噴火期間の短さを保証するものではなく,かつまた噴火のクライマックスが過ぎたことも保証していないことである.事実として,東大地震研から8月31日の予知連伊豆部会に提出されたマグマ位置と噴火メカニズムのモデルにかんする資料の末尾には「今後どう推移するかを確実に予測することは困難であるので,当面,厳重な監視と事前/迅速な避難行動が必要である」と結論づけられている(なお,この論争について,的確な報道をおこなった朝日新聞などのメディアもある).
 マスメディアは,学者の間に論争があると,そこにステレオタイプ的な対立図式をあてはめて報道しがちである.1990年代後半にとくに盛んだった地震予知の可能/不可能論争の報道においても,しばしばそのような対立図式が用いられ,実際には地震学者の多数を占めている「中間派」層の意見は無視されることが多かった.
 上述した三宅島噴火のモデル論争報道でも,そのような安易な報道姿勢があったのではないだろうか.筆者は,8月21日の予知連伊豆部会後の記者会見を傍聴したが,ジャーナリストたちの明らかなつっこみ不足を感じた.また,いつも思うことであるが,ジャーナリストのほとんどは社会部記者であり,科学ましてや火山学の基礎知識が不十分な者が多い.そもそも本論文のような考察は,本来なら科学ジャーナリストが学者や行政官に対する綿密な取材をした上でなされるべきものでありたい.科学研究上の問題に強いジャーナリストの養成をマスメディアに期待したい.

5.どうすればいいのか
 以上の事実や考察をもとにして,火山危機におけるよりよい火山活動評価と情報伝達のために改善に努めるべきことを挙げ,まとめに代える.

 火山情報の訂正発表
 前節の1)と4)で問題点を述べたように,すでに発表した火山情報であっても,情報の種類選択が不適切であったり,内容に誤りや不十分さがあったことがわかれば,それらを柔軟に訂正・再発表してほしい.

 気象庁担当者の増員,組織・システムの改編
 火山危機に適切に対応できる気象庁担当者をさらに増員し,前節の1)と2)で述べたようなマンパワー・専門性の不足と,それに派生する問題を少しでも解決してほしい.ただし,これらの問題は構造的なものであり,多少の応援増員ではそれを補えない状態にあるのかもしれない.
 また,前節の3)で述べたように,現在の噴火予知連メンバーの多くは理学部出身の火山学研究者であり,真に防災に役立つサイエンスを議論するには専門分野の広さが不足している.さらに,委員の多くを占める大学研究者は,本職をかかえたうえでのボランティア参加である.
 以上の問題について根本的な改善のためには,省庁の壁を越えた組織・システムの改編や統廃合が必要かもしれない.

 噴火予知連の議論の改善,サポート組織の結成
 前節の3)と4)で述べた問題解決のために,噴火予知連は,防災に役立てるためのサイエンスの原点に立ち返り,メカニズム議論に盲目的に没頭することなく,現実に起きつつある火山現象の危険性評価と危険回避の方策をもっと検討してほしい.その実現のために,必要に応じて危機管理・医療・衛生・防災工学・心理学などの関連分野の専門家も,噴火予知連の議論に招いてほしい.それが無理なら,火山危機時において噴火予知連をサポートする専門家チームをあらかじめ結成し,準備運用させておいてほしい.
 さらに,予知連での最大限効率的な議論の実現をサポートするグループウェアを確立してほしい(全資料の電子ファイル化による整理,webやMLによる事前閲覧・議論,会議室設備の電子化,議事録の即時作成など).最低限の改善として,各機関から提出される資料(とくに厚いもの)は,重要図表だけを抜き出したダイジェスト版をメインとし,その他の資料は補足資料として別冊子にすべきと思われる.

 噴火予知連の見解の改善
 前節の4)で述べた問題を解決するために,噴火予知連は検討結果の公表方法を見直してほしい.具体的には,統一見解文として発表する従来の慣例を見直し,外国の火山危機管理で使用実績のある,火山の時々の危険度を表す「カラーコード」の公表や,低頻度現象までを含めて起き得る火山現象それぞれのシナリオと確率評価をおこなう論理ツリーの作成・公表を検討してほしい.すでに噴火予知連は1995年度から5年間にわたって火山情報ワーキンググループを設け,火山情報のカラーコード化(レベル化)試案の作成と提言をおこなっている4).少なくともカラーコードの適用については,すみやかに検討・実現してほしい.また,予知連見解のまとめ方と公表の仕方については,IAVCEI Subcommittee for Crisis Protocolsの提案5)がひとつの参考になるだろう.

 防災意思決定にかんする情報公開
 前節の4)で述べたように,火山情報や予知連見解を受けた形での防災意思決定は,そのほとんどが,判断材料の提供者たる噴火予知連委員の目にすら見えない形でおこなわれている.どのような議論がなされ,どのような理由でその時々の判断が下されたのかを,気象庁・国土庁(現内閣府)・自治体は詳しく情報公開してほしい.

 組織的・系統的な火山教育と成熟した火山観の育成
 前節の5)で述べたように,ジャーナリストの多くは火山の基礎知識や,地学現象に対する考え方の熟成が不十分なこともあって,火山について不適切な報道をしがちである.このことは,マスメディア側に一方的に責任があるわけではなく,学者側がふだんからジャーナリストや一般市民に対する火山教育を怠っているせいでもあると思う.
 これまで日本の火山は,噴火災害が起きた時にだけ注目され,それゆえ暗いイメージをもたれることが多かった.しかしながら,他の多くの自然災害がそうであるように,火山災害は火山のもたらす恵みと不可分の関係にある.日本の人間社会が長期にわたって享受している火山の恵みの多さをきちんと認識してこそ,火山と正しく向き合う知恵や文化が生まれる.学者が主体となった系統的・組織的な,かつ噴火災害だけに偏重しない火山教育が,さらに推進されるべきである6)

参考文献
1)気象庁(1995)火山噴火予知連絡会20年のあゆみ.気象庁,455p.
2)たとえば,鹿児島県防災会議(1999)鹿児島県地域防災計画(火山災害対策編).400p.
3)岡田 弘:アメリカ合衆国の火山の観測・研究体制.http://uvo.sci.hokudai.ac.jp/staff/okada/volchazard/C20USA1.HTML.
4)気象庁(1999)火山噴火予知連絡会ワーキンググループの報告について.火山噴火予知連絡会報,no.73,125-128.
5)IAVCEI Subcommittee for Crisis Protocols (1998) Professional conduct of scientists during volcanic crises. Bull. Volcanol., 60, 323-334.
6)小山真人(1999)地震学や火山学は,なぜ防災・減災に十分役立たないのか.科学,69,256-264.


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