(日本火山学会1992年秋季大会予稿)

伊豆半島の第四紀火山の層序と年代

高木圭介(静岡大理)・小山真人(静岡大教育)

Stratigraphy and chronology of the Quaternary volcanoes in the Izu Peninsula

Keisuke Takagi and Masato Koyama (Shizuoka University)

伊豆半島には数多くの第四紀火山が分布する.その火山体の層序と年代に関するデータを未公表資料も含めてコンパイルした.

湯河原火山・多賀火山・輝石石英安山岩小噴出岩体
 久野(1952,熱海図幅)の研究があるのみで,詳細は不明である.湯河原火山は箱根火山より古く,多賀火山は湯河原火山より古く宇佐美火山(後述)より新しいとされている.輝石石英安山岩小噴出岩体(久野,1952)は,数枚以内の噴出ユニットからなる小規模なデイサイトの溶岩流または溶岩円頂丘である.これらは散点的に5ヶ所に分布し,上多賀および軽井沢石英安山岩は多賀火山を,鍛冶屋石英安山岩は湯河原火山をおおう.また,伊豆山石英安山岩は湯河原火山におおわれ,日金石英安山岩は多賀・湯河原火山間にはさまれるとされる.鍛冶屋,上多賀,日金石英安山岩のFT年代は,それぞれ0.39,0.51,0.57Maと報告されている(鈴木,1970,第四紀研究).Koyama and Umino(1991,JPE)は,岩質と層位の類似から,宇佐美火山をおおう小さな溶岩円頂丘である柏峠石英安山岩(久野,1970,伊東図幅;小山,1982,静岡大地研報)も,これらに属すると考えた.以上述べた層序関係と年代,すべて正帯磁の古地磁気極性から,これらの火山の活動時期は0.7〜0.3Maの間に入ると考えられる.

宇佐美火山
 小山(1982)は,従来宇佐美火山とされていた噴出物を火山体の構造と岩質にもとづいて上位より,US-S,US-0〜V,下尾野川安山岩類の合計8つのユニットに区分し,US-SからUS-Vまでを宇佐美火山噴出物として再定義した.また,US-Sから正帯磁(ブリュンヌ期:0〜0.73Ma),US-0〜IVから逆帯磁(松山期の末期:0.73〜0.90Ma),US-Vと下尾野川安山岩類から正帯磁(ハラミヨ亜期:0.90〜0.97Ma)の古地磁気極性を得た.磁極期との対比は,US-IV,V,および下尾野川安山岩類から得られた0.45〜0.87MaのK-Ar年代(Kaneoka et al.,1970,JGG)と下尾野川安山岩類がおおう堆積岩の化石年代(1Ma,岡田,1987,化石)にもとづく.東伊豆単成火山群の巣雲山スコリア丘(0.22Ma:小山ほか,本予稿集)におおわれること,上位の多賀火山とともに火山体の開析が著しいことから,主要な活動期間は1〜0.5Maの間であろう.

天子火山
 Koyama(1986,東大博論)は,従来天子火山とされていた噴出物を火山体の構造・分布・岩質にもとづいて下位の矢熊火山岩類と貴僧坊デイサイト,および上位の天子火山噴出物の3つに区分した.また,天子火山噴出物から正帯磁(ブリュンヌ期),矢熊火山岩類上部から逆帯磁(ハラミヨ亜期以降の松山期),矢熊火山岩類下部および中部から正帯磁(ハラミヨ亜期)の古地磁気極性を得た.磁極期との対比は矢熊火山岩類がおおう堆積岩の化石年代(1Ma)にもとづく.これらの年代,一部が天城火山におおわれること,火山体の開析が著しいこと,活断層によって50〜300m程度の変位を受けていること(Koyama,1986)を考慮すれば,主要な活動時期はおおよそ1〜0.4Maの間に入ると考えられる.

天城火山
 主として岩石学が研究され,層序については不明な点が多い.天子火山の一部をおおい東伊豆単成火山群におおわれること,すべて正帯磁の古地磁気極性(Koyama, 1986),火山体の開析の程度から,主要な活動時期は0.7〜0.3Maの間と考えられる.

達磨火山・井田火山・大瀬崎火山・真城山スコリア丘・棚場火山
 達磨火山が棚場火山を,井田火山が達磨火山の下部(前期溶岩流)と大瀬崎火山をおおい,真城山スコリア丘が井田・達磨両火山をおおうとされている(白尾,1981,地質雑).井田火山から0.64Ma,達磨火山から0.58〜0.83Ma(Kaneoka et al., 1988,火山),棚場火山から1.2〜1.5Ma(資源エネルギー庁,1987,広域調査報告書)のK-Ar年代が得られている.古地磁気極性は,井田・大瀬崎両火山と達磨火山の上部(後期溶岩流)が正帯磁(ブリュンヌ期),達磨火山の下部(前期溶岩流)が正帯磁と逆帯磁の両方(ハラミヨ亜期とその後の松山期),棚場火山が逆帯磁(ハラミヨ亜期以前の松山期)である(Kikawa et al., 1989,JGG).磁極期との対比は上述の放射年代にもとづく.以上の年代と層序関係,どの火山も火山体の開析が著しいことから,おおよその活動時期を図のように推定した.

猫越火山・長九郎火山・猿山火山
 これまで第三系に含める見解もあった.しかし,他の第四紀火山と同様,陸上噴出と考えられる新鮮な溶岩からなり,上部中新統〜鮮新統白浜層群を不整合におおうことから,第四紀と考える方が自然である.Koyama(1986)は,従来猫越火山とされていた噴出物を構造と岩質から下位の風速峠火山岩類と上位の猫越火山噴出物に区分し,この両者の間に棚場火山噴出物の溶岩流がはさまれることを見いだした.さらに,猫越火山上部と長九郎火山から正帯磁(ブリュンヌ期),猫越火山下部および風速峠火山岩類中部〜上部から逆帯磁(ハラミヨ亜期以降の松山期),風速峠火山岩類下部から正帯磁(ハラミヨ亜期)の古地磁気極性を得た.磁極期との対比は,猫越火山下部と長九郎火山から得られたそれぞれ0.77Ma,0.62MaのK-Ar年代(資源エネルギー庁,1987)にもとづく.これらの年代,火山体の開析が著しいことから,主要な活動時期は1〜0.5Maの間(長九郎火山は0.7Ma以降)に入るだろう.猿山火山は猫越火山の南に隣接し,岩石も類似しているため,猫越火山の一部かもしれない.

蛇石火山・南崎火山
 主として岩石学が研究され,層序については不明の点が多い.蛇石火山の溶岩から1.35MaのK-Ar年代(資源エネルギー庁,1987)と逆帯磁の古地磁気極性(Kikawa et al., 1989),南崎火山の溶岩から0.35〜0.45Ma(Kaneoka et al., 1982,地質雑)のK-Ar年代と正帯磁の古地磁気極性が得られており,それぞれ松山期とブリュンヌ期に対比できる.

活動史の解釈
 上部地殻の側方拡大に対する制約が大きい場合は既存の火道を反復利用する複成火山が生じ,側方制約が小さくどこにでも火道が開口可能な場合は独立単成火山群が生じると考えられている(中村,1986,火山特).図から,伊豆半島の第四紀複成火山のほとんどが0.3Maまでに活動を停止し,以後は独立単成火山群である東伊豆単成火山群のみが活動していることがわかる.よって,0.3Ma頃以降少なくとも東伊豆においては地殻の側方制約が弱まったとみられる(Koyama and Umino, 1991).