SERI Monthly (2019年7月号)に加筆

伊豆ジオめぐり(4)

天城の大地の物語

最新測量がさぐる謎の地形

火山学者 小山真人

火山としての天城山
 伊豆半島の中ほどに位置する天城山は、最高峰の万三郎岳(標高1406m)などの峰々をつらね、ブナやシャクナゲなどの豊かな森林を満喫できることからハイキング客に親しまれている(写真1)。
天城山は100万年に及ぶ長い時間をかけて主に溶岩を積み上げて成長し、東西20km、南北25kmの広がりをもつ伊豆半島の陸上で最大の火山となったが、およそ20万年前に噴火を停止した。その後は風雨によって浸食され、かつて2000m近い標高でそびえていたであろう山頂部分は、すでに失われている。
稜線の南東側がえぐられたような急峻な地形になっているのは、相模湾側に刻まれた谷に沿って特に浸食が進んだためである(図1)。一方で、山の北半分には火山特有のなだらかな山腹や裾野の地形が残っている。天城山の稜線は、ちょうどこの地形の緩急の境界線となっており、縦走路ハイキングコースもそこをたどるように整備されている。

活断層がつくった八丁池
 そんな天城山の稜線付近で、とくに目をひく地形は、稜線の西端近くにある直径200mほどの小さな湖、八丁池である(写真2、3)。秋は紅葉にいろどられ、冬には全面結氷する四季折々の美しい姿は、この上ない憩いの場をハイカーに提供している。なぜこんな場所に湖があるのだろうか?
かつて八丁池は、天城山の火口のひとつと考えられていた。古い火口に水がたまってできた火口湖というわけである。爆発あるいは噴火直後の陥没によってできるのが火口だから、その周辺には爆発によって飛び散った堆積物、あるいは陥没による断層等が見つかるはずである。天城山周辺には、15万年前以降に噴火を始めた伊豆東部火山群の火口も分布することから、八丁池がそれらの火口のひとつである可能性も当初は検討された。しかしながら、八丁池付近には古い溶岩しか分布しておらず、火口である証拠は見つけられなかった。
この謎は、最近になって航空レーザー測量という新技術の導入によって解決した。航空レーザー測量は、飛行機から地上に向けてレーザー光線を照射することによって、地表の精密な凹凸を計測する技術である。落葉が進んだ季節を選んで測定すれば、森林の下に隠された地形も明らかにできる。
その結果、八丁池は活断層がつくった凹地に水がたまってできた断層湖であることが明らかになった(図2)。東西に伸びる谷間の最奥部が、北北西―南南東方向の活断層によって切られ、東側が落ち込んでいることがわかる。これによって凹地が生まれ、出口を失った水がたまって八丁池となったのである。

写真1 南西上空から見た天城山

 

図1 北西から俯瞰した天城山の地形。「スーパー地形」にて作成

 

写真2 秋の八丁池。遠景に富士山が見える。

 

写真3 冬の八丁池。結氷しているのがわかる。

 

図2 八丁池付近の地形。Hが八丁池、白矢印の間の線状の崖が活断層。国交省沼津河川国道事務所作成の立体地図に加筆

 

地すべりがつくったシラヌタの池
 航空レーザー測量は、天城山のもうひとつの名所のできかたも明らかにした。東伊豆町を流れる白田川支流の川久保川をさかのぼった標高640mほどの深い谷間に、シラヌタ(不知)の池がある。森に囲まれた直径50mほどの神秘的な池で、モリアオガエルの生息地となっている(写真4)。かつてこの池も伊豆東部火山群の火口と考えられたことがあったが証拠は見つからず、できかたは謎のままだった。
 航空レーザー測量の結果、シラヌタの池の上流で地すべりが起き、崩れた土砂が支流の谷の出口をふさいだ結果、小さな凹地がつくられたことがわかった(図3)。そこに水がたまったのがシラヌタの池である。よく見ると、池の凹地の南隣にも、同じ原因でできた凹地があることがわかる。

写真4 シラヌタの池(撮影:伊豆半島ジオパーク推進協議会)

 

図3 シラヌタの池付近の地形。S:シラヌタの池。白い破線:地すべりで崩れた土砂の範囲、白矢印:崩れた方角。国交省沼津河川国道事務所作成の立体地図に加筆

 


もどる