SERI Monthly (2019年6月)に加筆

伊豆ジオめぐり(3)

西伊豆の大地の物語

地上で見られる海底火山

火山学者 小山真人

堂ヶ島海岸
 西伊豆の有名な景勝地である堂ヶ島海岸は、美しい地層や奇岩が露出する崖や、天窓洞と呼ばれる洞窟をめぐる遊覧船が人気である。これらの地層や奇岩は、すべて大地の営みがつくった造形である。
 堂ヶ島では、まず国道の陸側にある広い無料駐車場に車を停めるとよい。海岸方面に歩くと、国道をくぐる広い地下道がある。地下道の壁には、堂ヶ島海岸の地層やその成り立ちに加えて地域の歴史や文化の解説もあり、ここで予備知識を得ておくと良いだろう。
 地下道の出口に遊覧船の切符売り場があり、広場の正面が船着き場となっている。天気が良く、波の静かな日には、ぜひ遊覧船に乗り、海から景色を眺めることをお勧めする。所要時間20〜50分の4つのコースがあり、ジオパークに興味がある人は所要50分の「ジオサイトクルーズ」もある(注:毎週土曜12時〜のみ)が、他のコースでも十分にこの地を堪能できる。
 波が高い日には遊覧船が欠航となるので、その場合は船着き場から案内板に従って右手をめざせば遊歩道の入口があり、10分ほどで海岸の展望台に出ることができる。そこから北に広がる海岸の白い絶壁が、この地でもっとも著名な「斜交層理」の崖である(写真1)。

堂ヶ島の地層美
 崖に見られる美しい縞模様は、海底火山から噴出した軽石と火山灰が、波や海流の作用を受けながら海底に堆積してつくられたものである。展望台の足元の岩盤も同じ地層からできているので、目を寄せて確認してみよう。よく探せば、白い地層中に黒々とした大きな火山弾をいくつか見つけることもできる。
 遊覧船はこの崖下にある洞窟に入っていく。洞窟は波の浸食による自然のものであり、その途中に天井が崩落してできた天窓がある(写真2)。差し込む光が海水を青く染めて幻想的である。この天窓には遊歩道を通って地上から行くこともでき、通過する遊覧船を上から眺められる。
 展望台で斜交層理の崖を堪能した後は、斜面を少し下りてみよう。美しい縞模様を見せる地層の下に、大きな岩の集合体からなる別の地層があることに気づく(写真3)。この地層は、海底火山の噴火にともなって海底を流れた土石流の地層である。土石流が停止した時にまだ高温(200〜500℃)だったことが、岩石中の微弱な磁気の分析結果から推定できた。

写真1 堂ヶ島海岸の「斜交層理」の崖

 

写真2 堂ヶ島海岸の「天窓洞」

 

写真3 噴火時に高温のまま海底を流れた土石流の堆積物

 

三四郎島と浮島海岸
 時間に余裕がある人は、堂ヶ島から国道を少し北に進むと「瀬浜海岸」の標識があるので(近くに小さな無料駐車場もある)、遊歩道を海岸まで下りてみるとよい。正面に見えるのが三四郎島であり、季節と時間を選べば、海岸と島の間が狭い浅瀬でつながる「トンボロ現象」に出会うことができる。
 三四郎島は、硬い岩が波の浸食に耐えて浅瀬に飛び出ている。その芯をつくる岩石は、かつての地下のマグマの通り道である「岩脈」だ。岩脈を間近に観察するには、満潮で孤島に取り残される恐れのある三四郎島よりは、さらに国道を北に進んで分岐を下った浮島海岸をお勧めする。
 浮島海岸の駐車場(夏季は有料)から左手に進むと、海岸に奇岩の群れが広がる。これらは岩脈の集合体であり、岩の割れ目はマグマが収縮することによってできた柱状節理である(写真4)。
 三四郎島や浮島海岸に見られる岩脈(マグマの通り道)の上には、かつて海底火山がそびえていたが、その後の陸化と浸食によって山体のほとんどが失われた。堂ヶ島付近の崖に広がる軽石・火山灰・土石流の地層は、この失われた海底火山の産物とみられる。

海底火山を読み解く
 これらの海底火山の地層は、堂ヶ島から南方の松崎方面へと海岸沿いに続いており、その美しさや興味深さを短い字数では語り尽くせない。ほんの一例を挙げれば、沢田公園の崖上には露天風呂があり、崖の地層と海の絶景を眺めながら温泉につかることができる。さらに南の枯野公園では、土石流の重みで直下の火山灰の地層が液状化した「火炎構造」や、マグマと海水が触れ合うことで砕けながら海底を流れた「水冷破砕溶岩」の地層も見られる(写真5)。
以上述べたように、ひとくちに海底火山の地層と言っても、実にさまざまな種類のものがある(図1)。少し慣れれば、それらの特徴から当時の噴火の様子を読み取ることができるようになる。
私たちは、潜水艇などの特殊な道具を使わない限り、海底火山の噴火や噴出物を直接観察することはできない。しかも、噴火中の海底火山の観察には大きな危険を伴う。しかし、本州との衝突によって伊豆半島が隆起・浸食したおかげで、本来は海底にあったはずの地層や岩石を直接見られるようになった。それらをアクセス良く遊覧できる西伊豆の海岸は、まさに「海底火山の国」と言ってよい。このような場所は世界的にも珍しいため、これまで海外の研究者が何人も訪れ、多くの学術論文が執筆されている。西伊豆は世界の海底火山研究の一翼を担った地でもあるのだ。

写真4 かつて地下にあったマグマの通り道である岩脈群

 

写真5 枯野海岸の水冷破砕溶岩

図1 海底火山の噴火がつくった多様な地層(筆者による解説。イラスト:萩原佐知子)

 


もどる