伊豆新聞連載記事(2012年4月22日)

伊豆ジオパークへの旅(97)

大地の公園(18)アイスランドの火山公園(9)

火山学者 小山真人

 

 前回紹介したシンクヴェトリルから舗装道路を50キロメートルほど東に走ると、ゴールデン・サークルの2つめのスポット、ゲイシルにたどりつく。アイスランドに数多くある地熱地帯のひとつであるが、比較的アクセスしやすい上に熱湯を噴き上げる間欠泉があるため、レストランや売店が併設されている。温泉が湧き出す池はいくつかあり、現在活動中のストロックル間欠泉はその中のひとつである。噴泉の高度や間隔は時代による変化があるが、数十分に1回程度、20メートルほどの高さまで見事に噴き上げる。
 ゲイシルからさらに東に8キロメートル進むと、3つめのスポットであるグトルフォス滝がある。内陸の大氷河のひとつ、ラング氷河に源を発するクヴィタ川にかかる巨大な2段の滝である。日本の滝とは比べ物にならない豊富な水量が圧倒的な迫力をもつ。
 グトルフォス滝から50キロメートルほど南西に走ると、道路のすぐわきに大きな火口が見えてくる。ケリズ火口と呼ばれ、直径が200メートル、深さが50メートルほどある。北東―南西方向に並ぶ火口群のひとつとして6500年前の噴火でつくられた。底に水がたまって火口湖となっているため美しく、人目をひく。
 ゲイシルに代表されるように、アイスランドには豊富な地熱の恵みがある。首都レイキャヴィクの家々には通常の水道の他に「温水道」が完備されているため、湯沸かし器を必要とせず、蛇口をひねればいつでも熱湯が出る。それはまぎれもない温泉であり、かすかに硫黄の匂いがする。こうした地学的事情を反映して、アイスランドの電力の3割弱は地熱発電によってまかなわれている。地熱発電所のわきには温排水をためる池がある。環境への排水の影響を最小限にするために、冷却や成分調整の目的で作られたものである。そのひとつを温泉観光地としたのが、有名な「ブルー・ラグーン」である。
 ブルー・ラグーンは、レイキャヴィクの南西40キロメートルほどの場所にある地熱発電所に隣接し、その温排水をためた広大な池の一部を露天温泉として利用する施設である。1987年にオープンし、更衣室、レストラン、ラウンジ、ホテルなどの機能を備えた立派な建物が併設されている。ケブラヴィーク国際空港にも近いことから様々な観光ツアーがあり、利用客は年間40万人という。予約なしでの立ち寄りも可能で、入場料は大人35ユーロである。おそらく世界最大の5000平方メートルもある露天温泉池は、黒々とした溶岩原の中に青みがかった乳白色の湯をたたえ、幻想的な美しさをもつ。ただし、水着の着用が義務づけられており、湯の温度も38度程度で日本人にとってはやや物足りない。

 

ケリズ火口

 



世界最大の露天温泉「ブルー・ラグーン」

 

 


もどる