伊豆新聞連載記事(2012年4月15日)

伊豆ジオパークへの旅(96)

大地の公園(17)アイスランドの火山公園(8)

火山学者 小山真人

 

 カトラ・ジオパークは現在のところアイスランド唯一のジオパークであるが、前回まで述べてきた通り、すでにアイスランドは国全体が事実上のジオパークとして機能している。今後も体制が整ったところから順次認定を受けていくだろう。ここでは、遠出をしなくても楽しめる首都レイキャヴィク近郊のみどころを紹介しておこう。
 レイキャヴィクからの日帰り観光コースとして最も有名なのが「ゴールデン・サークル」である。その中のお決まりのスポットと言ってよいのが、シンクヴェトリル(世界遺産)、ゲイシル間欠泉、グトルフォス滝、の3つである。それらの周遊のために、アイスランドの内陸地域では珍しい舗装道路が整備され、観光バスが走り回っている。
 シンクヴェトリルは、レイキャヴィクの東40キロメートルにあるシンクヴァトラヴァトン湖の北岸一帯である。平原の中に数軒の建物と小さな教会があるだけの場所であるが、10世紀初めにアイスランド最初の法と議会が成立した記念碑的土地として知られている。しかし、むしろ観光客たちは、シンクヴェトリルの美しい風景と、それをつくったアイスランドの地学的状況を目の当たりにしようと訪れているように見える。
 シンクヴェトリルの最大の特徴は、その大地に刻まれた「ギャオ」と呼ばれる数多くの地溝(ちこう)である。ギャオは、幅数十センチから十数メートルほどの地表の割れ目であり、アイスランドの大地が地球表面の運動によって裂けつつあることを実感できる証拠のひとつである。ギャオは、アイスランドの中でも特に地殻変動や火山活動の活発な地域に数多く分布する。
 シンクヴェトリルには、北北東―南南西方向に伸びる数列のギャオが見られる。もっとも目立つのが西端近くにあるアルマンナギャオであり、割れ目の最大幅はおよそ10メートルで、東側が落ち込んでいる。アルマンナギャオの地下にある断層は、1789年に大きな地震を引き起こし、東西の段差を1メートル増加させた。このような地震による間欠的な動きのほか、連続的にもじわじわと動き続けていることが、測量結果から明らかにされている。
 アルマンナギャオの中や周辺に遊歩道や橋が整備されており、散策を楽しめる。西から流れてきたエクサラオ川が滝となってアルマンナギャオの中に注ぎ込み、ギャオに沿って500メートルほど流れた後、外に流れ出てシンクヴァトラヴァトン湖に注いでいる。遊歩道ぞいのアルマンナギャオの壁面には、アイスランドの大地をつくった溶岩流の断面も観察できる。

 

シンクヴェトリルのアルマンナギャオ地溝。地溝の中を川が流れている。

 

空から見たグトルフォス滝

 

 


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