伊豆新聞連載記事(2012年4月8日)

伊豆ジオパークへの旅(95)

大地の公園(16)アイスランドの火山公園(7)

火山学者 小山真人

 

 1973年1月23日にアイスランド沖のヘイマエイ島で起きた噴火は、5ヶ月かけて高さ220mのスコリア丘・エルトフェトル山を誕生させた後、同年6月末に終了した。火山灰と溶岩流によって400もの家屋が埋没したが、帰島した住民たちの努力の結果、町と漁港は元のにぎわいを取り戻して現在に至っている。火山灰で埋まった町の一部が最近発掘され、公園として整備された。発掘された建物のひとつひとつに美しい解説看板が付され、建築年や間取り、かつての住人の名前が書かれている。この「北のポンペイ」を見ようと、連日多くの観光客が訪れている。町外れにあるので歩いても大した距離ではないが、観光バスツアーのルートにも入っている。
 ヘイマエイ島へは船で渡るツアーもあるが、小型旅客機の定期便がひんぱんに行き来しているので、日帰りでたっぷりと現地を楽しめる航空便利用のツアーをお勧めする。筆者は、ひとり4万クローナ(現在の換算レートで約2万6000円)のプランを利用した。往復の航空料金のほか、島を一周する観光船ツアー、観光バスによる島内めぐりの代金も含まれていて、お得である。
 観光船ツアーは、漁港の入江を埋めかけた1973年噴火の溶岩流をめぐった後、島をとりまく断崖絶壁の見どころを次々と訪れていく。崖の下部には海底噴火時代の地層、崖の上部には陸化した後の溶岩流や火山灰の断面が見えている。ヘイマエイ島が海底噴火によって誕生し、陸化していった歴史がよくわかる。ところどころに、見事な柱状節理をもつ「火山の根」もある。
 驚いたことに、観光船の船長がガイドを兼ねており、こうした地層の見方と島の生い立ちを実に的確に説明していた。ジオパーク外の地域でも、地元のガイドがジオの見方をきちんと説明できる。それがアイスランド全体の特色である。なお、島をめぐる断崖は、有名なパフィンなどの野鳥の営巣地となっているので、それが目当ての人も楽しめるだろう。営巣地見学はバスツアーの中にも組みこまれている。
 観光船は、やがて大きな海食洞の中に船ごと入っていく。このあたりは西伊豆の堂ヶ島海岸の観光船を思い出させる。面白いのは、洞窟の真ん中で船のエンジンを停止させたことである。波の音が自然な雰囲気で楽しめる。やがて船長がおもむろにサックスフォンを取り出し、演奏を披露し始めた。海食洞の反響をコンサートホールのように楽しむのである。お客からは大喝采。伊豆の観光船でも、さすがに演奏サービスまでしなくてもよいから、せめて見どころでは短時間停止して自然を満喫するなどの味付けを取り入れると良いと思った。

 

ヘイマエイ島の噴火遺構公園「エルトヘイマール」。「10m」などの表示は家をおおった火山灰の厚さ。

 

島の南部の海岸に見られる地層。草地の下の縞々の地層は、海水とマグマが触れ合って生じた爆発的噴火の堆積物。草地の上の黒い崖は、陸上を流れた溶岩。

 

 


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