伊豆新聞連載記事(2012年3月25日)

伊豆ジオパークへの旅(93)

大地の公園(14)アイスランドの火山公園(5)

火山学者 小山真人

 

 アイスランドのカトラ・ジオパークの地図を眺めていると、不思議なことに気づく。ミルダルス氷河の北部を含む一帯が空白になっている。ジオパークの範囲外になっているのだ。ここはランガルシンク・イトラという自治体の領域で、アイスランドで最も有名な活火山と言ってもよいヘクラ山(1491メートル)、15世紀後半の割れ目噴火によってつくられたヴェイディヴェトン火口列、アイスランドでは珍しい大型カルデラをもつトルヴァヨークトル火山、温泉の湧く川での露天入浴が楽しめるランドマンナレイガル温泉など、観光スポットが目白押しの場所である。これらのスポットは四輪駆動車を使ったひとつの観光ルートによって接続されており、さらにその延長上に前回紹介したエルトギャオ火口列もある。つまり、アイスランド南部の火山観光のメインルートと言ってもよい場所が、ジオパークに隣接しているのに、その範囲外となっている。こうした自治体境界による不自然なジオパークの区切りは、ここに限らず日本も含めた全世界にある。自治体の個別の事情もあるのだろうが、観光客のことを考えた区割りを実現してほしいと思う。
 ヘクラ山はアイスランド屈指の活動的火山であり、歴史時代にも1104年以来20回余りの噴火を起こしている。ヴェイディヴェトン火口列は、割れ目噴火によってできた火口や溶岩流の集合体である。北東のヴァトナ氷河から南西のトルヴァヨークトル火山にまで伸び、その全長はなんと67km以上もある。火口や低地には水がたまり、全体として無数の小さな湖が寄り集まった絶景の谷間となっている。
 ランドマンナレイガル温泉は、トルヴァヨークトル火山のカルデラ北縁に位置している。ここに来た誰もが、まわりの山々が黄色や白や緑などの色で美しく染められていることに気づく。これらの鮮やかな色は、古い溶岩や火山灰の変質によるものである。川中の温泉につかりながら南側を見上げると、岩塊を積み重ねたような外観をもつ高さ20mほどの崖がそびえている。ヴェイディヴェトン火口列の南西端から流出したレイガフレイン溶岩の末端である。
 アイスランドの火山は、粘りけの弱い玄武岩を噴出することが圧倒的に多く、ヴェイディヴェトン火口列の大部分も同様であった。ところが、その噴火割れ目の南西端がトルヴァヨークトル火山の中に伸びた場所で、興味深い事件が起きた。粘りけの強い流紋岩質のレイガフレイン溶岩が流出したのである。新しい噴火割れ目がマグマだまりの天井の一部を破ったため、そこにあった古いマグマが刺激されて地表に出たと考えられている。

 

ヴェイディヴェトン火口列

 

空から見たトルヴァヨークトル火山。カルデラを埋めた噴出物が美しい色彩をもつ。

 

 


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