伊豆新聞連載記事(2012年3月11日)
火山学者 小山真人
アイスランドの人口は32万人あまりと少なく、そのうちの6割ほどが首都レイキャヴィクとその近郊に住んでいる。レイキャヴィクはアイスランド観光の基点であり、島全体にわたるバス、自動車、飛行機、船、果てはスノーモービルや馬までを手段とした、ありとあらゆる観光ツアーがここから出発している。アイスランドでは、必ずしもレンタカーを使う観光が、旅慣れた人間にとって自由で最適とは言えない。内陸には舗装道路がほとんどなく、川には橋すら架けられていないからである。さらに、内陸の原野を走るのに必須の四輪駆動車のレンタカー料金は高額である。レイキャヴィクのホテルやゲストハウスに腰を落ち着け、そこから短い観光ツアーを組み合わせてアイスランド中をめぐることができるし、その方が安上がりで安全である。英語はアイスランド中でまんべんなく通じる。
筆者は、1996年9月と2010年8月の2度、アイスランドを訪れた。二度目の訪問は、前回述べたエイヤフィヤトラヨークトル火山の状況視察の機会にもなった。噴火はすでに終了していたが、火口からは白い噴気がもうもうと立ち上っていたし、降灰や氷河バーストの生々しい爪痕も確認することができた。被災地の生活や観光ルートはすでに正常に復帰していたため、通常の観光ツアーのみを用い、現地の専門家の協力を得ずに一観光客として視察をおこなった。そのほうがジオパークのありのままの姿を体験できるからである。
カトラ・ジオパークの視察のために筆者が選んだツアーは2つ、四輪駆動車による地上ツアーと、軽飛行機による空中散歩である。両方とも「ジオツアー」と銘打たれていたわけではないが、もともと氷河や火山の観光需要が高い土地なので、ジオを主眼としたツアーを容易に見つけることができる。
四輪駆動車によるツアーは、エイヤフィヤトラヨークトル火山の山麓の見どころを8〜9時間かけてめぐる日帰りツアーである(ひとり3万5千クローナ、 現在の換算レートで2万3千円)。とくに、氷河バーストの跡を延々とさかのぼり、その発生地点を見上げる場所まで行けたのは圧巻であった。軽飛行機によるツアーは、フライトコースと飛行日の希望を出しておき、最低催行定員3人がそろった段階で天候が良ければ実施連絡をもらえる。日本を出発する前にネットを通じて希望を出すことも可能である。筆者が選んだツアーは、アイスランド南部の主な氷河と火山をめぐった上で、噴火したての火口の直上を旋回する2時間のツアーであった(ひとり3万8千クローナ:約2万5千円)。こうしたツアーは、季節と状況によって中身が変化する。
氷河バーストを起こした氷河の先端。ここにあった小さな湖は、その時流れ出した膨大な量の土砂で埋まってしまった。
エイヤフィヤトラヨークトル火山の西麓にある「裏見の滝」セルヤランズフォス。高さ60メートル。滝の裏側に遊歩道がある。