伊豆新聞連載記事(2012年2月26日)
火山学者 小山真人
「伊豆ジオパークの目標」の話題が一段落したところで、国外の火山公園の話をもうひとつ語っておこう。本連載の第3〜6回および第75〜77回で、フランスのオーヴェルニュ国立公園の話をした。そこでは美しい風景や文化の中にみごとに溶け込んだ火山たちの姿を楽しめるが、フランス本国の中に活動的な火山はない。活きた火山の魅力を味わう場所として第一に挙げたい国が、アイスランドである。アイスランドは火山と氷河によって彩られた美しい島であり、毎夏多くの観光客がこの島の自然を満喫している。
アイスランドは、北大西洋に浮かぶ東西500キロメートル、南北350キロメートルほどの、北海道より少し広い面積をもつ島である。島の中央に北緯65度線が通過し、北岸沖にある小島がかろうじて北極圏にかかっている。海底地形を含む地図で見ると、アイスランドは「大西洋中央海嶺(かいれい)」の一部が海面上に顔を出した部分にあたることがわかる。大西洋中央海嶺は、地球表面をおおう岩板(プレート)のうちの2枚(北アメリカプレートとユーラシアプレート)が離れつつある場所である。そこでは地殻が割れて東西に広がり、その割れ目にできた空間をおぎなうために、地下から大量のマグマが地表に上ってくる。このため、アイスランドの国土全体が新旧さまざまの火山の折り重なりによって作られている。また、地殻変動の証である生々しい割れ目や断層も見られる。
アイスランドの美しく壮大な景観は、こうした火山活動や地殻変動だけによって作られたものではない。島の1割強の面積をおおう氷河も大きな役割を果たしている。氷河と言っても、谷間だけをおおうケチなものではない。高地をまるごとおおう広大かつ厚いものであり、島最大のヴァトナ氷河は東西120キロメートル、南北90キロメートル,最大厚さは1000メートルに及ぶ。
アイスランドでは、地形的にひとつふたつと数えられる火山がある一方で、平坦な場所で突然大規模な割れ目噴火が生じることもある。このため個々の火山を認識するためには、地形的特徴だけでなく、噴火割れ目や断層の分布もふくめた総合的な考察が必要である。その結果として、アイスランド上に全部で32の「火山システム」の存在が認められている。個々の火山システムは噴火割れ目や断層の密集帯であり、その中に山や窪地の地形をもつ火山が点々と存在する。2010年4月の爆発的な噴火でヨーロッパ中の航空機を停めたエイヤフィヤトラヨークトル火山も、こうした火山システムのひとつである。
アイスランドの主な火山と氷河の分布
空から見たレイキャネス半島の火山群