伊豆新聞連載記事(2012年2月19日)
火山学者 小山真人
ジオパークの5つめのメリットは、地域の防災への貢献である。その第一は、「防災組織・専門家との密接な連携」である。伊豆半島ジオパーク推進協議会を構成する伊豆半島の7市6町は、それぞれが防災担当部署を備えている。ジオパークを直接担当するのはこれら市町の観光関係部署であり、防災担当部署ではない。しかし、両者はともに同じ役所の中にあり、必要に応じて密接な情報交換や調整が可能である上、人事の交流もある。さらに、ジオパーク推進協議会に常駐する専任研究員(本連載第45回)は、地質学のみならず防災・危機管理にも通じた人間である。顧問としてジオパークをサポートする筆者も防災を専門分野のひとつとしており、3月に発足予定の伊豆東部火山群の防災協議会委員もつとめる。また、ジオパーク推進協議会は、伊豆半島内各地のジオサイトの保全と安全・防災対策を統括する責任も負う。こうしたことから、ジオパーク推進協議会は、地域の防災に対するアドバイザーの役割を担いうる組織と言える(同52回)。このため、静岡県が定めた「伊豆東部火山群の火山災害対策計画」には「伊豆半島ジオパーク推進協議会と連携し、観光客等に対して火山に関する防災思想と防災対応を広く普及・啓発する」との一文が付加されている(同60回)。つまり、今や伊豆半島には、伊東沖群発地震を始めとする自然災害の警戒・発生時に、その状況を適切かつすみやかに判断・説明できるアドバイザー的組織と専門家が常駐していることになる。どうかこの仕組みを役立ててほしいと願う。
第二は、「地域の防災活動・防災教育の深化」である。ジオパークで養成されるジオガイドは、伊豆半島で生じる自然現象・災害に関する専門知識が豊富な上に、不測の事態への対処スキルや、科学的知識を人に伝える技術にたけた人々である(同52回)。こうした人々は、防災専門家に準じる存在でもあり、地域の防災リーダーとしても活躍できる素養を備えている。平常時はジオガイドとして勤務するかたらわらで防災対策にも一定の役割を果たしてもらい、非常時には危機管理の一端を担う人材として活躍してもらえるだろう。
一方、学校におけるジオパーク教育は、地域特有の自然現象や災害についても学べるため、防災教育としての一面も備えている(同49回)。こうした教育を地域で展開することによって、結果として災害に強い人材を数多く社会に輩出し、地域の防災力を高める効果が期待される(同74回)。なお、ジオパークの6つめのメリットである「学校教育に対するメリット」の全体については、本連載の第49回を参照してほしい。
伊豆半島ジオパーク推進協議会専任研究員の鈴木雄介さん(三島市出身)。静岡大学で火山学を学び、調査会社や国土交通省の外郭団体で数々の防災業務を経験した後、この職に転身した。筆者の若き分身である。
1月に伊豆半島各地で実施された伊豆半島ジオガイドの認定試験の様子。候補者のひとりひとりに30分間の野外見学案内を課した。