伊豆新聞連載記事(2012年2月12日)
火山学者 小山真人
ジオパークによる地域の経済活動へのメリットの第四は、世界との交流による観光客の増加である。本連載の第83回でも述べたが、ジオパークに認定されることによって日本の他地域や世界中から注目を浴びることになり、視察のための訪問客や一般観光客の増加が見込まれる。そもそもジオパークには、「世界的ネットワークの一員として、相互に情報交換を行い、会議に参加し、ネットワークを積極的に活性化させる」ことが義務づけられている。このため、とくにジオパークが多数認定されているヨーロッパと中国からの訪問客・観光客の増加が期待できるだろう。さらには隣接する伊豆大島ジオパークや、箱根ジオパーク(来年度の認定申請を予定中)との観光ルート接続による相乗効果も生まれるだろう。また、伊豆の人々の目も、当然日本や世界各地のジオパークに向くことになるため、交流人口の増加も期待できるし、それに従って富士山静岡空港や駿河湾フェリーの利用客の増加も見込まれるだろう。ちなみに糸魚川ジオパークの拠点施設であるフォッサマグナミュージアムの入館者数は、日本ジオパーク認定(2008年12月)と世界ジオパーク認定(2009年8月)を経た2009年度、2010年度ともに約6万人となり、2007年度と比較して約5割増えたという。
第五は、新たな特産物の創出、関連産業の振興である。ジオサイトやビジターセンターの整備を始めとして、ジオパークを運営する上で必要となるものが数多くある(本連載第46〜47回)。道路、遊歩道、駐車場、安全柵、説明看板、パンフレットなどの各種資料、ホームページ、のぼり、横断幕、ポスター、みやげ物などである。また、ジオにちなんだ特産品、土産物、食材、食堂メニューも開発する必要がある(第48回)。こうした需要は観光産業だけでなく、さまざまな関連産業の振興に役立つだろう。実際に、伊豆各地で「ジオフード」を開発する動きが始まっている。
第六は、雇用の促進である。本連載第47回でジオパークにおけるガイド(ジオガイド)の必要性について説明したが、今後養成されるガイドたちが様々な場面で活躍することになる。また、本格的なガイドとは行かないまでも、宿泊客に対して簡単な情報提供や案内ができる人材を、各旅館やホテルで確保することも必要となるだろう。さらに、観光産業だけでなく、上述したジオパークの関連産業の振興や、第85回で述べた学術・芸術文化活動の振興などによっても、新たな人材雇用の機会が増していくことだろう。
伊東市内のレストランMakaMakaが考案した「大室山オムライス」。こうしたジオパークにちなんだメニューの開発は重要である。
ジオパークにちなんだお菓子の開発も始まっている。左は「堂ヶ島海底土石流パウンドケーキ」、右は「一色枕状溶岩クッキー」。どちらも西伊豆エリアの誇る美しい海底火山の噴出物に似せたものである。ジオガイド養成講座の修了生である南伊豆町の寺島さん作成。