伊豆新聞連載記事(2012年1月29日)
火山学者 小山真人
ジオパークの3つめのメリットは、地域の学術・文化活動への貢献である。
その第一は、ジオパークにおける学術研究活動そのものの振興と、学際的研究による新たな成果発見の可能性である。ジオパークの構成資産は地球科学的な事物を基盤としながらも、他分野と深い関連をもつものが数多く含まれている(本連載第43回)。現代においては科学の専門分野が細分化され、それらを横断する研究が進行しにくい状況となっているため、こうしたジオパークの構成資産についての研究も遅れ気味である。このことは、逆にまだまだ未解明・未解決の宝の山が隠されていることを意味する。伊豆半島のもつ構成資産の量と質を高め、将来のジオパーク認定審査や継続審査に備えるためにも、今後はジオパークに特化した学際的な研究が必須である。これにより、これまでなかった数多くの分野の専門家協働による新たな調査研究活動が大いに進められるだろう(同第14回)。さらに、これまで専門家ですら気づいていない事物同士の関係が専門分野間のすきまに埋もれていると予想されるため、そうした関係を住民自身が発見したり、研究を提案したりする楽しみが残っていると言えるだろう。
第二は、自然保護・保全の進展である。ジオパークの目的は活用と地域振興だけではなく、価値ある資産の保全も柱のひとつとなっている。ジオサイト候補地の中には既存の法令によってすでに保護・保全されているものもあるが、開発や防災上の名目によって破壊された例や、保全状態がきわめて悪化している例も多い(第50回)。ジオパークの認定を受けることによって、こうした貴重な遺産が持続的な保護・保全を受け、末永く地域の財産として活用されることが期待できる。
第三は、芸術文化活動の振興である。ジオパークの構成資産には芸術や文化に関する事物(有形・無形を問わない)も含まれ、そうした事物はジオパーク構想の第5のテーマ「変動する大地と共に生きてきた人々の知恵と文化」とも密接に関係する(第12〜13回)。実際に、伊豆独特の地形・地質は宗教や民俗に影響を与えるとともに、数々の文学や芸術作品を生み出す素材になってきた(第14回)。こうしたことから、ジオパークの認定は学術だけでなく、地域独自の芸術・文化活動を促進すると期待される。つまり、伊豆の自然を愛する文学者や芸術家を招いた講演会やトークショー、ジオに関連した展覧会や茶会、ジオをテーマとした文学賞や写真コンテストの開催等も、ジオパークの普及活動として大いに進めるべきものなのである。ぜひ住民の方々から色々なアイデアを出したり実践したりしてほしい。
伊豆の山中の各地にあるワサビ田。その分布には地域性が見られるが、地形・地質・湧水等との関係はまだ明確になっていない。ジオパークとしては第一級の研究テーマである。
南伊豆町の子浦日和山にある石仏群。背後のひさしのような崖は、海底火山の噴出物が浸食されたもの。石仏がこうした場所に置かれた理由や、石仏の石材の起源など、学際的研究の興味は尽きない。