伊豆新聞連載記事(2012年1月22日)
火山学者 小山真人
ジオパークのメリットと言えば、観光客の増加などの実利的な方面にばかり目を向ける人が多いが、そればかりに注目すると本質を見失いやすい。ひとつの目的の下に一体感が高まり、地域全体が全世代にわたって元気になり、それが継続されるという点に、もっと注目すべきであろう。つまり、ジオパークのメリットの第2は、目には見えにくいメンタルな面でのメリットである。
そのひとつは、前回も触れた「郷土に対する誇りの醸成(じょうせい)」である。ジオパークは、世界に誇る大地の遺産が郷土にあることや、それが世界中から注目を浴びていることを地域に知らしめるため、地域の人々がそれまで知らなかった郷土の価値や魅力を再発見することにつながる。そのことによって、自分たちの郷土に対する高い誇りが醸成される。
その効果は、伊豆総合高校のジオパーク教育(本連載第49回参照)からも実感できる。筆者が伊豆総合高校でジオパークに関する出前授業や野外実習を始めてから3年目になる。生徒たちが残した感想文を読むと、授業前は「自分の住む地域には、誰かに自慢できることなんて無いと思っていた」「伊豆は日本の中の小さい地域なので、特に驚くことは無いと思っていた」「地元について考えたりしなかった」などと書いた生徒たちが、授業後は「自分が伊豆に生まれたことを、初めて誇らしいと思える」「伊豆には他の地域に負けない良いところがあるとわかった」「(伊豆を)誰かに自慢したい」などの言葉を残している。つまり、ジオパーク構想は、伊豆の未来を背負う若者の意識も変えつつある。
メンタルな面でのメリットのふたつめは、「団結心の醸成」である。ジオパークは地元の多くの組織と人々の手によって運営される(本連載第44回)。これによって、ジオパークというひとつの旗の下に団結心が高まり、地域全体の活性化につながることが期待できる。地域振興を考える上では、目に見える実利的なメリットよりも、こうして地域全体が元気になることの効果がより重要ではないだろうか。
伊豆の地域振興に関わってきた関係者たちによれば、「伊豆はひとつ」という掛け声はあるが実際にうまく機能した市町協働プロジェクトはほとんどないため、「伊豆はひとつひとつ」と揶揄されてきたという。それがジオパーク構想の登場により、伊豆半島の7市6町が予算を出し合って伊豆半島ジオパーク推進協議会をつくり、事務局と専任職員を配置したこと自体が画期的なことらしい。その後、事務局は2012年度の日本ジオパーク申請に向けて精力的な活動を続けており、それに呼応するように各市町の観光協会・商工会を始め、協同組合、民間企業・団体、一般市民など、ジオパーク構想に賛同する組織・個人が次々と現れている。まさにジオパークの旗の下に、伊豆全体の団結心が醸成されていることを実感する今日この頃である。
伊豆半島ジオパーク構想の公式ロゴマーク。この旗の下に伊豆全体がまとまりつつある。
いとう漁協は「海の中だってジオだ」の合言葉の下で伊豆半島ジオパーク構想を支援している。彼らの協力の下で昨年11月に実施した城ヶ崎海岸のジオクルーズの様子。