伊豆新聞連載記事(2012年1月15日)
火山学者 小山真人
東日本大震災という現実を目の当たりにして、ジオパークと防災の関わりについての説明を前回までやや詳しく続けてきたが、そこばかりに目が行くのは筆者の本意ではない。今後は伊豆各地のジオサイト候補地の価値と魅力について本格的に語っていくつもりだが、その前にジオパークのメリットについてまとめておこう。ジオパークのメリットは、(1)全体的なメリット、(2)メンタルな面でのメリット、(3)地域の学術・文化活動へのメリット、(4)地域の経済活動へのメリット、(5)地域の防災へのメリット、(6)地域の学校教育へのメリット、の6つに整理できる。
全体的なメリットの第1として、「新規性と継続性」が挙げられる。これまでの日本においては、地形・地層・岩石などの地球科学的な事物のもつ観光的な価値が、まったくと言ってよいほど注目されていなかった。ところが、そうした魅力について初めて説明を受けた人々が「目からウロコ」のごとき感動を覚える姿を、経験上よく目にする。つまり、ジオパークは、これまで知られていなかった新しい趣味・楽しみの創造につながるものである。
一方、世界ジオパーク認定までに3回の審査、認定後も4年に1度の継続審査にパスしていかなければ、ジオパークを名乗り続けることはできない(本連載第42回参照)。このため、ジオパークを維持する限りは、必然的に活動を継続していかなければならない。この点は、一過的で継続性のないイベントでの集客とは根本的に異なるものである。たとえば、TVドラマや映画のロケ地に選ばれたとしても、そのことによる集客は一時的なものに過ぎず、長続きしない。「チェンジ伊豆2000!」のキャッチフレーズとカエルのキャラクターで誰もが思い出す2000年度の「伊豆新世紀創造祭」のせっかくの盛り上がりも、今に生かされていないと思う。
全体的なメリットの第2は、「関わることのできる人々の多さと厚み」である。ジオパークの構成資産は「大地に根ざしたすべてのもの」であり、地球科学的事物のみならず、人文科学・芸術文化活動をふくむ有形・無形物全体に及び、地域全体がまるごとテーマパークの様相をなしている(本連載第43回)。この懐の広さが、さまざまな職業につく多くの人々の興味・関心を呼び、それぞれの専門分野や能力に応じた幅広い地域活動を起こしていくことを可能としている。
全体的なメリットの第3は、「世界からの注目」である。日本ジオパークの認定を受ければ日本中の、そして世界ジオパーク認定のあかつきには世界中の人々の注目を浴びることになる。このことは、郷土の誇りを呼び覚ますとともに、観光・交流人口の増加に良い影響を与えるだろう。
ジオパークの6つのメリット
洞爺湖有珠山ジオパークで2010年9月に開催された第2回日本ジオパーク全国大会には、日本中からジオパーク関係者のべ2000名が集まった。写真はメイン会場となった洞爺湖サミット記念館。