伊豆新聞連載記事(2011年11月27日)
火山学者 小山真人
前回述べたピュイ・ド・ロンテジー火山公園の近くに、15年前には無かった新しい施設が誕生していた。火山のテーマパーク「ブルカニア(Vulcania)」である。ここは、1981年までフランスの大統領をつとめたジスカール・デスタン氏が、その後オーヴェルニュ州知事となり、地域の観光振興策として火山観光を進める中で建設された施設だ。おそらく世界初で、今も唯一の、火山に主眼を置いたテーマパークであろう。火山遊園地・博物館・研修施設・公園を兼ねた大規模な施設(面積57万平方メートル、約17万3000坪)であり、娯楽と教育の両方が柱と聞き及んでいたので、いつか訪れたいと思っていた。
ブルカニアは2002年2月にオープンし、その年は63万人弱の入場者を数えたが、年々減り続けて2006年には21万人に落ち込んだ。その後は新しいアトラクションを毎年増やしていく、つまりは娯楽にウェイトを移す策が若干功を奏して2010年に34万人に回復したというが、州の観光の目玉として巨額の費用を投じた割には期待外れとの批判があるという。ちなみに、新聞記事などによれば、伊豆シャボテン公園が約34万5000人(2008年度)、伊豆アニマルキングダムが約24万人(2010年度)とのことである。
実際にブルカニアを訪れてみると、主要道からゲートをくぐって入るところまでは日本の行楽施設と同様である。しかし、そこから先が一風変わっている。雑木林の中に点々と未舗装の駐車スペースがある。駐車した地区の看板の記号を覚えていないと、後から自分の車を見つけ出すことが困難である。さらに、森の散歩道を10分ほどハイキングした後、ようやく施設の料金所にたどり着く。巨大な建物は半地下構造で作られ、周囲は森と草原に囲まれている。こうした作り方は、国立公園内にあるための自然や景観の保護策の一環らしい。
いったん入場料を払った後は、好きな場所から園内を見て回れる。あちこちに見られる行列は、人気アトラクション目当ての客たちである。そうしたスポットを避け、まずは空いている博物館セクションに向かう。2011年夏は、没後20周年にあたるクラフト夫妻の特設展が行われていた。夫妻は世界的に有名な火山撮影家であったが、1991年6月3日の雲仙岳の火砕流で亡くなった。フランスでは大変著名な人たちである。この特設展のほか、常設展としてフランス国内や世界の火山が上手に解説されている。園内の売店には、火山にまつわる種々の図書やグッズが数多く売られていて楽しい。多数あるアトラクションの中には、7万4000年前にスマトラ島で起きた巨大噴火をCGで疑似体験する「ミッション・トバ」など興味深いものもあったが、行列が長いので諦めてしまった。混雑する夏休みを避けて再訪したいと思っている。
フランスのオーヴェルニュ州にある火山のテーマパーク「ブルカニア」の園内。
半地下構造で作られたブルカニアの園内の様子。壁のあちこちには本物の溶岩流の断面が、むき出しのまま残されている。