伊豆新聞連載記事(2011年11月20日)
火山学者 小山真人
以前、フランスのピュイ・ド・ロンテジー火山の採石場跡地を利用した公園を紹介した(本連載第1部第46回ならびに本連載第4回)。この火山は、大室山などと同じ「スコリア丘」と呼ばれる小型の火山の仲間であり、採石後の崖で内部構造がよく見えるため、1994年に公園化された。通常は捨て置かれる採石場跡地をみごとに有効利用した例として高く評価され、同様な場所を複数抱える伊豆でのジオサイト(見学スポット)整備の見本のひとつと考えていた場所である。
この公園を15年ぶりに訪れたところ、さらに整備が進み、来訪客も増えている様子がうかがえた。感心したのは、崖の地層に対する火山学的な解説だけにとどまらず、敷地内に放置されていた砕石の分別・加工施設にも産業遺構としての解説が加えられ、見学コースに組み入れられていた点である。自然の営みだけでなく、自然と人間の関わりの歴史を総合的にとらえるジオパーク的な視点の結実と言えよう。
やや残念に思われることもあった。以前はガイドなしでも公園内に立ち入ることができ、各自の思い思いのペースで散策し、途中で切り上げることも可能であった。ところが、数年前からそうした自由がきかなくなったようである。敷地を囲むように柵が設けられ、出入口には鍵がかけられてしまい、見学者はガイドつきの団体ツアーへの参加が義務づけられていた。整備が進んだとは言っても、相変わらず公園内にほとんど日陰がなく、ベンチも置かれていない。あいにくの炎天下、徒歩による見学ツアーは2時間以上に及んだ。女性のガイドは熱心に説明してくれたが、言葉だけの説明が多く、図示がほとんどない。また、暑さにへばっている参加者への配慮も無く、ツアーを途中で切り上げる選択肢も示されなかった。最初からミニトレインによるショートツアーを選べば良かったと悔やんだが、後の祭である。ミニトレインと徒歩のルートは完全に分けられており、途中の変更もできない。全体的に管理が行き過ぎて融通がきかなくなった反面、個々の参加者の都合や健康への配慮は不十分である。おまけに、ツアーの最後に、娯楽の要素しかないCG映像アトラクションに強制参加させられた。つまらないことにお金をつぎこんだものだ。子ども連れへの配慮であろうが、来館者数を維持したいがゆえに遊園地化していく博物館を見る思いである。
当初はジオパークのさきがけとも言ってよい高邁な理想をもってスタートし、世界の最先端を走っていた火山公園も、観光客の増加と管理主義・業績主義の浸透によって徐々に変質をとげてきたといったところであろうか。ようやくジオパーク整備に着手したばかりの伊豆から見れば、こうした問題はまだ遠い未来のように感じられる。しかし、現実に国内のジオパークでも、行き過ぎた安全対策のために肝心の崖が全く見えなくなったという本末転倒の笑えない話もあり、こうした先駆地の成功・失敗事例から学ぶことは多い。
ピュイ・ド・ロンテジー火山公園でのジオツアー。火山弾に腰かけながら、ガイドの説明を聞く。
砕石の分別・加工施設跡にも産業遺構としての見学コースが整備されていた。