伊豆新聞連載記事(2011年10月9日)

伊豆ジオパークへの旅(70)

伊豆ジオパークの目標(30)ジオパークと防災(20)

火山学者 小山真人

 前回と前々回で、伊豆東部火山群が陸上噴火を起こした場合のシナリオについて述べた。とは言え、なかなか自分の住む町で、将来そのような噴火災害が起きることを想像・実感できる人は少ないだろう。1989年7月の伊東沖噴火は海底噴火であり、しかも海面上に噴煙が見えたのは、夕闇の中のわずか10分足らずであった(本連載第1部第124〜125回参照)。もっとも新しい陸上噴火は2700年も前のことであり、当然のことながら目撃記録は残されていない。噴火の存在は、地形や噴出物などの物的証拠からわかるのみである。国内外の類似した噴火事例にもとづいて、それが実際に自分たちの身に起きることを想像しろと言われても、なかなか現実感をもてないのが実状ではなかろうか。本連載の第64回と68回で述べたように、マグマ上昇が起きても噴火にまで至る確率は2〜3%と低く、さらにその2割程度しか陸上で起きない。つまり、陸上噴火の確率は0.4〜0.6%に過ぎない。
 しかしながら、確率が小さいからと言って、それに全く備えずに市街地で噴火した場合、その代償はあまりにも大きい。低確率の現象であっても、それが生じた場合の被害が甚大と予測される場合には、きちんとした事前対策をとっておくべきなのである。そのことは、私たちが東日本大震災の経験から、身にしみて学んだはずではないだろうか。
 残念ながら、「噴火の影響が及ぶ可能性のある範囲」の図(本連載第54回)は、大ざっぱな噴火場所と影響範囲を図示するのみであり、実際に起きる現象と噴出物の及ぶ範囲は、前回・前々回で述べたシナリオにもとづいて各自が想像するしかない。次の噴火の位置や規模を事前に予測することは困難なため、噴出物におおわれる範囲を示すためには、火口・噴出量・噴火の仕方などを仮に定めた上で、あくまで例として描くことになる。富士山など他の火山ではそうした例を図示したものがあるが、コンピュータシミュレーションなどの作業に費用と時間が必要なため、伊豆東部火山群では今後の課題となっている。
 現時点で、将来起きる陸上噴火を実感するためには、過去に起きた噴火の様子を地図で眺めて想像するのが最善と考える。「火山がつくった伊東の風景」「火山がつくった天城の風景」(いずれも伊豆新聞社刊)では、陸上で起きた噴火の噴出物分布が示されている。これらの図を参考にして、そうした噴火が実際に自分の住む町で生じた場合のことを、ぜひ一度思い描き、各自がとるべき対策へとつなげていってほしい。1978年以来のマグマ活動域は伊東沖にとどまっているが、将来もずっとそこにとどまる保証はない(第1部第113回参照)。活動域が内陸に移動した場合にも、そうしたイメージトレーニングが役立つだろう。

 

陸域での伊豆東部火山群の噴出物分布の例(伊東市の一部)。「火山がつくった天城の風景」(小山真人著、伊豆新聞社刊)より

 


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