伊豆新聞連載記事(2011年10月2日)
火山学者 小山真人
前回に引き続き、伊豆東部火山群が陸上で噴火した場合に何が起きるかを考える。噴火推移がわかっている陸上の71火山のうち、31の火山で水蒸気マグマ噴火が起きた。残りの40火山のうち、30の火山では溶岩のしぶきが噴水のように吹き上がる噴火(ストロンボリ式噴火)が起き、大室山に代表されるようなスコリア丘(きゅう)と呼ばれるタイプの小火山がつくられた。71火山中の30火山という実績から、伊豆東部火山群の陸上で噴火が生じた場合にストロンボリ式噴火となる確率は約45%と見積もられる。この30火山のうち、6火山(20%)はそのまま終了に至ったが、残りの24火山(80%)では溶岩が流出した後に噴火が終了した。ストロンボリ式噴火はそれほど爆発的な噴火ではないが、火口付近での火山弾、降灰や降雨時の土石流、さらには溶岩流や火山ガスなどに注意が必要である。
さて、陸上71火山のうちの残り10火山では何が起きただろうか。そのうちの9火山では、火口からいきなり溶岩が流出した後に噴火が終了した。71火山中の9火山という実績から、このタイプの噴火の可能性を約10%と見積もった。溶岩流の下敷きになると大変であるが、流下速度は人の歩く速さくらいなので、注意を払えば逃げる時間は十分にある。
残る1火山(カワゴ平火山)は大変厄介な例である。この火山は、伊豆東部火山群の長い歴史の中で最悪の噴火を起こした(本連載第1部第88〜92回)。高度1万メートルを超える連続的な噴煙を吹き上げる噴火(プリニー式噴火)を引き起こし、伊豆半島の北半分を含む中部地方の広い範囲に軽石と火山灰の雨を降らせた後、大見川・狩野川・堰口川の3河川の上流域に火砕流を流し、最後に溶岩を流出した。これによって広い範囲の土地が荒れたため、噴火後も降雨のたびに土石流が発生した。もし同様の噴火が起きたら、避難範囲は伊東市と伊豆市の一部だけでは済まなくなる。
しかしながら、全71火山中のただ1例という実績から、このタイプの噴火が起きる可能性は単純計算でも1.4%と小さい。しかも、カワゴ平火山のマグマは、伊豆東部火山群では珍しい流紋岩質のマグマであり、火山群の中央部でしか確認されていない。伊東沖で群発地震を起こしているマグマは玄武岩質と考えられており、実際に手石海丘から噴出したのも玄武岩質マグマであった。このため、マグマの活動域が伊東沖にとどまる限りは、このタイプの噴火が起きる可能性は1%未満と考えられるため、防災計画上は「想定外」の噴火として扱われている。
陸上噴火のシナリオの全体像
イタリアのストロンボリ火山。溶岩のしぶきを噴水のように吹き上げる「ストロンボリ式噴火」を毎日のように繰り返している。大室山などのスコリア丘は、ストロンボリ式噴火によってできた。