伊豆新聞連載記事(2011年9月25日)
火山学者 小山真人
前回述べたように、伊豆東部火山群の「火口が生じる可能性のある範囲」の8割が海域、2割が陸上にある。つまり、不幸にして噴火に至った場合、20%程度は陸上での噴火となる。場合によっては噴火が市街地で生じるかもしれないので、どのような現象が起きるかを防災上きちんと把握しておく必要がある。
気象庁のパンフレットにある火山活動シナリオの図(本連載第55回参照)には、「陸上での噴火:噴石、降灰、ベースサージ、溶岩流、土石流」と現象が列挙されるのみであるが、伊豆東部火山群の火山防災対策検討会の報告書にはさらに詳しいシナリオ図があり、噴火推移の枝分かれや発生確率が示されている。この図にもとづいて、陸上噴火が起きた場合に何が起きるかを説明しよう。
前回も述べたが、伊豆東部火山群の「火口が生じる可能性のある範囲」の地下には玄武岩質マグマがあるとみられる。玄武岩質マグマは穏やかな噴火を起こす場合が多いが、火口付近に大量の地下水があると、海域での噴火と同様に、水と高温のマグマが反応して爆発的な噴火(水蒸気マグマ噴火)を起こすことがある。伊東市の一碧湖(いっぺきこ)や沼池が、まさにこうした陸上での水蒸気マグマ噴火によってできた大きな火口の実例である。こうした陸上での水蒸気マグマ噴火にともなう危険な現象は、海域での噴火と同じく、ベースサージ(火山灰まじりの横なぐりの爆風)と大きな噴石(火山弾)である。また、海域とは異なって、降り積もる火山灰や、降雨にともなう土石流にも注意が必要となる。
地下水の量や分布を正確に把握することは困難なので、水蒸気マグマ噴火の発生確率の見積もりは難しいが、伊豆東部火山群全体の過去の実績を参考にして、その確率をおおざっぱに見つもった。伊豆東部火山群に属する陸上の火山のうちで、地質調査によって噴火推移が判明したものが71火山ある。このうち水蒸気マグマ噴火を起こした火山は31ある。31を71で割ると43.7%となり、この数字を丸めて45%とする。この実績を未来にも適用し、陸上で噴火が生じた場合に水蒸気マグマ噴火が起きる確率を45%と考えることにした。
なお、水蒸気マグマ噴火を起こした31火山のうち、17火山(55%)はそのまま終了に至ったが、残りの14火山(45%)では地下水がすべて蒸発して穏やかな噴火に移行した後に、溶岩を流出して噴火が終了した。したがって、火口より下流側では溶岩流への注意も必要となる。こうした火山の例として、伊東市の梅木平火山や伊豆市の国士越(こくしごえ)南火山が挙げられる。
陸上噴火のシナリオ(水蒸気マグマ噴火の場合)。水蒸気マグマ噴火以外は次回に説明。
伊東市の一碧湖。陸上で水蒸気マグマ噴火を起こした火山の例である。遠景は伊東温泉街。