伊豆新聞連載記事(2011年9月11日)

伊豆ジオパークへの旅(66)

伊豆ジオパークの目標(26)ジオパークと防災(16)

火山学者 小山真人

 伊東沖のマグマ上昇によって引き起こされる群発地震が「警戒」シナリオに至り、噴火の心配が出てきた場合の話を続けよう。その際の想定火口域(火口が出現すると予測される場所)は、気象庁のパンフレット「伊豆東部火山群の地震活動の予測情報と噴火警戒レベル」の地図中に太線枠で示されている「火口が生じる可能性のある範囲」の中のどこか一部となる(本連載第54回参照)。この想定火口域は、その時実際にごく浅い群発地震が生じつつある場所(つまり、マグマが地表付近に上ってきた場所)として、噴火前に特定できる可能性が高い。伊東付近には密度の高い観測網が設置され、24時間監視がなされているからである。
 そこで、想定火口域がどこであるかを言葉によってすみやかに伝えるために、あらかじめ「火口が生じる可能性のある範囲」を21の区画に分割し、それぞれの区画に記号と名称が付されることとなった。ただし、一度の噴火危機に際して1区画のみが危険になるわけではないことに注意が必要である。その時の群発地震の広がりによっては2〜4区画(あるいはそれ以上)が同時に想定火口域となり、その区画の外縁から2キロメートル以内の範囲(噴火の影響が及ぶ可能性のある範囲)を含む地区に対して、避難勧告や避難指示が出されることになる。
 たとえば、川奈東沖のF-1区画のみが想定火口域となった場合は、川奈地区の一部のみが避難勧告・指示の対象となるが、伊東港付近のB-1とC-1区画の両方が想定火口域となった場合の避難勧告・指示地域は、湯川・松原・玖須美(くすみ)・新井・岡・川奈・鎌田・吉田の8地区にまたがる形となる。伊東白石付近(湯川海岸付近)のA-1やA-2区画が想定火口域となった場合には、伊東市内だけでなく伊豆市沢口地区の一部も避難勧告・指示の対象地域に入る。
 避難勧告・指示が出された地区の具体的な避難計画については、それぞれの市の地域防災計画の中で定められることになっているので、それを参照してほしい。当然のことながら、まずは市内の安全な地区への避難をめざすことになるが、避難路が危険区域をまたぐ場合などには市外への避難も考慮される。大変困ったことに、想定火口域の位置によっては伊東市役所も避難せざるをえなくなる場合がある。この点は伊東市にとって重い課題である。

 

「火口が生じる可能性のある範囲」の区分(「伊豆東部火山群の火山防災対策検討会」による)

 


想定火口域がB1+C1の2区域となった場合の危険範囲(噴火の影響が及ぶ可能性のある範囲(「伊豆東部火山群の火山防災対策検討会」による)

 


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