伊豆新聞連載記事(2011年9月4日)
火山学者 小山真人
前回述べたように、伊東沖のマグマ上昇によって引き起こされる群発地震が「警戒」シナリオに至る確率は5%と低いが、防災上はこうした事態がいずれまた来ると考えておかなければならない。このシナリオに至った場合、気象庁は噴火警報を発表して噴火警戒レベルを現在の1(平常)から4(避難準備)、状況によっては5(避難)に引き上げることになっている。これを受けて伊東市と伊豆市は、警戒すべき地域の住民に対して避難準備を呼びかけたり、避難勧告・避難指示を出すことになる。ここに伊豆市の名があるのは、噴火の影響が及ぶ可能性のある範囲に伊豆市東縁の一部(沢口地区)が含まれるためである(本連載第54回)。
噴火警戒レベルとは、個々の火山の危険度を表す数値であり、活火山を抱える自治体の防災に役立てることを目的に気象庁が2007年12月から導入を始めたものである。2011年7月時点で日本の主要29活火山に対して、その時々の状況に応じたレベルの数値が発表されている。伊豆周辺においては、2007年12月から富士山と伊豆大島、2008年3月から三宅島、2009年3月から箱根山にあいついで導入された後、2011年3月から伊豆東部火山群での運用が始まった。この噴火警戒レベルの導入にともなって、従来発表されていた火山観測情報・臨時火山情報・緊急火山情報は廃止され、それに替えて噴火予報・火口周辺警報・噴火警報が発表されることになった。このうち防災対応と関係するのは火口周辺警報と噴火警報であり、噴火警戒レベル2と3に対しては火口周辺警報、4と5に対しては噴火警報によって、その数値が伝えられる。
伊豆東部火山群では噴火警戒レベルの2と3を使用せずに、いきなり1から4に上げることを疑問に思う人は多いだろう。これは単成(たんせい)火山群としての伊豆東部火山群の特殊性による。伊豆東部火山群には定まった火口がなく、噴火のたびに火口の場所を変えてきた(同10回)。当面は群発地震の震源域内のどこかで噴火すると考えられているが、その影響範囲の中には伊東の中心市街地を含む人口密集域が含まれる(同54回)。いわば火口の中で人々が生活を営む状況下で噴火の可能性が生じた場合、レベル2・3を使用している余裕はなく、いきなり避難準備や避難が必要な状況となるからである。ただし、いったん噴火が始まって火口が定まった後、噴火が終息に向かう過程でレベル2や3を使用する場合もあると想定されている。
伊豆東部火山群の噴火警戒レベル(気象庁資料)。レベル2と3の説明は省略した。