伊豆新聞連載記事(2011年8月21日)

伊豆ジオパークへの旅(63)

伊豆ジオパークの目標(23)ジオパークと防災(13)

火山学者 小山真人

 先月16日から起きたマグマ上昇とそれにともなう群発地震は、伊豆東部火山群の火山活動シナリオ(本連載第55回)上で、どのように位置づけられるだろうか。前回まで説明したように、マグマは7〜8キロメートルの深い位置に留まったまま活動が終息した。つまり、シナリオ図左端の「深部からのマグマ上昇」から「マグマやや深部に留まる」を経て、右端の「活動の終息」に至った。このため、「地震活動の予測情報」が発表される対象とならず、実際に住民や観光客が不安を感じるほどの有感地震も起きなかった。つまり、想定されているシナリオ中で最も「安全」な推移をたどったのである。
 一方、2009年12月には、マグマは上昇開始からほぼ1日で地下3〜5キロメートルの浅い場所に至り、そこで激しい群発地震を引き起こしたが、そのまま終息した。シナリオ図左端の「深部からのマグマ上昇」から「マグマ浅部へ上昇」を経た後、右端の「活動の終息」に至ったわけである。こうした「注意すべき」推移を今後たどる場合には、気象庁から「地震活動の予測情報」が発表されることを、本連載第57〜59回ですでに説明した。
 「予測情報」の発表対象となる浅い群発地震の際に気をつけたいことは、やはり大きめの地震の揺れである。このことは筆者よりも、むしろ1978年以来たびたび群発地震を体験してきた伊東市民の方々がよくご存知だろうが、伊東沖の群発地震では最大でマグニチュード6程度の地震が発生することがあり、震源が陸地寄りの場合には震度5弱〜6弱の局地的な揺れを引き起こすことがある。2009年12月17日深夜と18日朝に起きた2回の地震が、まさにそうした地震であった。
 こうした地震の揺れは、これまで経験してきた通り、耐震性の低い建物でなければ倒壊を引き起こす危険は小さい。しかし、座りの悪い物体を倒したり、壊れやすい物を壊すに十分な強さがある。普段から耐震診断・耐震補強、家具や電気製品の固定を心がけておくことに加え、群発地震の発生期間中にはブロック塀・石垣・急斜面等の危険な場所や、ガラス製品などに近寄らないなどの注意が必要である。そうした対策を徹底しておけば、普段通りの生活をしていて問題はない。
 一方、たまたま群発地震に巡りあわせた観光客に対しては、誠実かつ十分な説明と万全な対応をおこない、信頼感をもって頂くことが何より重要である。そうした説明のためにも、今後は「地震活動の予測情報」や火山活動シナリオの図を活用してほしい。さらに、過剰な客離れを防ぐために、一歩踏み出して群発地震の発生期間中は料金を割引くなどの措置があっても良いと感じている。

 

火山活動シナリオ図上での2011年7月と2009年12月の群発地震の位置づけ

 


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