伊豆新聞連載記事(2011年8月14日)
火山学者 小山真人
前回述べたように、2011年7月16日から始まった伊豆東部火山群のマグマ上昇が引き起こした伊東沖の群発地震は、幸いなことに深い場所での発生に終始したため「地震活動の予測情報」を出すに至らず、20日頃に終息した。この間、気象庁や市役所から特別なアナウンスは発せられなかったが、前回詳しく説明したように気象庁、静岡県、伊東市などの防災関係機関、学識者、ジオパーク推進協議会などの担当者が情報交換をしながら事態のゆくえを見守ったのである。もしマグマが2009年12月のように浅い場所に移動して激しい群発地震を引き起こしていたら、本連載の第58〜59回で述べたような防災対応が表立ってなされただろう。そして、7月20日頃に「地震活動の予測情報」の最終報が発表され、伊東市長が終息宣言を出したと思われる。
今回の群発地震は、規模が小さく深い活動であった点を除けば、2009年の時とよく似た1回(単発)のマグマ上昇が引き起こした事件であった。こうした「単純」な事件であれば、その活動予測も比較的容易である。ところが、それに引き続いて2度3度とマグマ上昇が起き、結果として群発地震にも数度の山が訪れたことが過去何度かあった。たとえば、1989年6〜7月の群発地震は6月30日から最初のマグマ上昇による小さなひずみ変化が起き、それに応じた小規模な群発地震が発生したが、7月4日から突然大規模なマグマ上昇が引き続いた結果、長く激しい群発地震となり、ついには7月13日の噴火に至った。
つまり、マグマ上昇が単発で終わらない場合は、当初の予測情報の内容に修正が必要となる。このことを考慮し、初期に出される予測情報には「防災上の留意事項」として「活動期間の予測は一回のマグマ上昇に基づくため、複数回の上昇が起きた場合はさらに長引くことがあります」という一文が付記されている(本連載第58回参照)。
また、単発のマグマ上昇であっても、群発地震の末期や終了後に周辺地域でやや大きめの地震が起きることがある。これはマグマ上昇によって伊豆周辺の岩盤に加わったひずみが新たな地震を誘発させるからであろう。今回7月19日の早朝に西伊豆沖で起きたマグニチュード4.0の地震は、そうしたもののひとつかもしれない。こうしたことに留意し、予測情報の最終報には「活動終了後に震源域周辺でやや大きな地震の発生することがありますので、注意してください」と付記されることになっている。
2011年7月の群発地震前後のひずみ計と地震回数の変化(気象庁資料に加筆)
マグマが次々と上昇した事件の例(1989年6〜7月の群発地震)(気象庁による)