伊豆新聞連載記事(2011年8月7日)
火山学者 小山真人
本紙でも報道されたのでご存知の方は多いと思うが、さる7月16日から数日間にわたって、伊東沖の地下で伊豆東部火山群のマグマがふたたび上昇し、小規模な群発地震を起こした。群発地震としては、前回まで話題にした2009年12月のもの以来で、1978年から数えると47回めである。まず16日の午後から、東伊豆町奈良本のひずみ計(本連載第56回)が異常な変化を始めた。地下のマグマが上昇を始めたのである。ついで、17日の真夜中から、伊東市鎌田の地震計が人の体に感じない地震の連発をとらえ始めた。
16日から海の日の18日までは三連休だった。筆者は16日にNPO法人「まちこん伊東」の伊豆西南海岸ジオツアーのガイドをつとめ、17日は休暇をとって下田市内に滞在中であった。午後3時過ぎに伊豆半島ジオパーク推進協議会研究員の鈴木雄介さんから連絡があり、マグマ活動の開始を初めて知らされた。気象庁がネット上で公開しているひずみ計のグラフ(同57回)を確認したところ、2009年12月の群発地震時の変化よりは緩やかである。しかし、震源分布を見ると2009年とほぼ同じで市街地に近いため、油断はできないと判断。ネットでは震源の深さやその時間変化が不明なため、気象庁を含む防災関係者に問い合わせのメールを書いて返事を待った。
まもなく気象庁から回答があり、震源の深さが8〜10キロメートルと深いことを知り、少し胸をなで下ろした。しかし、浅い部分にマグマが上ってくる可能性があり、そうなれば前回まで説明した「地震活動の予測情報」の発表基準に達する。有感地震が活発になれば住民や観光客の不安も増すので、現状や見通しの解説も必要である。しかも3連休のさなかで、滞在する観光客は多い。17日夕方からは伊東市内で有感地震が起き始めた。状況の進展によっては翌日伊東に行って記者会見に臨む覚悟を決め、その日は遅くまでホテルでデータを監視した。せっかく久々の休日であったがやむを得ない。
翌18日の朝6時過ぎに気象庁から再びメール連絡があり、ひずみ変化は2009年群発地震時の4分の3程度であり、震源の深さは少し浅くなったが7〜8キロメートルにとどまっているとのこと。やがて東大地震研究所の森田教授からも連絡があり、マグマは群発地震開始から24時間以内に浅い場所まで上ってくる場合が多いが、今回はそうなっていないため深い活動のまま終わりそうとのコメントが届いた。その後は予想通り、震源がそれ以上浅くなることはなく、ひずみ変化も20日頃までに無事収まったのである。
2011年7月の群発地震の震源分布(気象庁による)
群発地震の震源の深さ変化(気象庁資料に加筆)。12月16日から上昇を始めたマグマが深さ7〜8キロメートルに至った後、上昇を止めたことがわかる。