伊豆新聞連載記事(2011年7月17日)
火山学者 小山真人
前回述べたことにもとづいて、伊豆東部火山群の「地震活動の予測情報」が、仮に2009年12月に起きた伊東沖の群発地震の際に発表されていたとしたら、当時の防災対応や社会状況がどう変わったかを考えてみよう。
まず、12月16日の深夜から始まったひずみ計の変化、すなわちマグマが上昇を始め、群発地震の発生が近いという見通しは、翌17日午前中のうちに多くの人が知るところとなっただろう。ひずみ計の変化開始時点で予測情報が出されるわけではないが、ひずみ計のデータ自体はネットで公開されているため、防災関係機関、報道各社、注意深い市民は、そのことに気づく。場合によっては、群発地震の開始を予知との速報が報道されるかもしれない。いずれにしろ、この時点では群発地震の規模や期間の予測は不可能であるため、市民側の対応としては日常的な防災体制・用具の点検や、いざと言う時の心構えを家族や社内で話しあっておくと良いだろう。
やがて17日の昼頃から無感の群発地震が発生し、夕方に至って有感の地震がそれに混ざり始めた頃、「地震活動の予測情報」の第一報が気象庁から発表され、群発地震の規模や期間の見通しが述べられることになる。その時点になれば震源分布もわかるため、過去の群発地震中で最も市街地に近く、震源も浅いことが伝えられ、大きな地震の揺れに対する注意喚起もなされただろう。
さらに、この時点で伊豆東部火山群の「火山防災協議会」が招集され、伊東市役所で最初の記者会見がおこなわれるかもしれない。まだ現時点では発足準備中のこの協議会は、防災関係機関の代表と専門家から構成された現在の「伊豆東部火山群の火山防災対策検討会」をスリム化して機動性を高めたものとなる予定である。
伊豆東部火山群の防災情報を気象庁の本庁(東京)だけが提供する今の方式は、どうしても一面的・一方通行的にならざるを得ない。このため、地元をよく知る火山専門家による補足や、市民や観光客の安全について責任をもつ伊東市役所からの解説も必須だろう。つまり、この「火山防災協議会」の会見は、気象庁・火山専門家・伊東市役所の合同会見と言うべきものであり、その場に各地区の自主防災会の代表を招くことも考慮すべきである。これによって市民や観光客は多面的な視点での情報が得られ、的確かつ冷静な防災行動が可能になると考えられる。また、こうした誠実で真摯な対応は、市民や観光客の安心感や信頼を得ることにもつながっていくだろう。
2009年12月17日17時の状況を想定した伊豆東部火山群の「地震活動の予測情報」の第一報(気象庁による)
平成○年○月17日17時00分 気象庁地震火山部
伊豆東部の地震活動に関する情報(第1号)
1.概況
16日夜から東伊豆奈良本のひずみ観測点で縮みのひずみ変化が観測されはじめ、本日、昼過ぎからは、体に感じない小さな地震が発生しはじめています。
2.地殻変動の状況
17日16時現在、東伊豆奈良本のひずみ計の縮み変化は継続しています。また、防災科学技術研究所が整備している周辺の傾斜計にも同期した変化がみられています。
3.地震活動の状況
17日昼過ぎから、体に感じない小さな規模の地震が発生しはじめました。伊東市大原で震度1以上を観測するような地震は発生していません。ただし、震源に近い場所では揺れを感じる場合があります。
4.地震活動の予測
17日16時現在の観測データから予測される地震活動の規模等は、以下の通りです。
地震の規模と震度:
M5程度(場合によってはM6程度になる可能性があります)
震度4〜5弱程度 *(場合によってはさらに強い揺れになる場合があります)
震度1以上の地震回数:200〜400回程度
活動期間:数日程度(長い場合は1週間程度)
火山活動:噴火に直ちに結びつくような現象は観測されていません。
5.防災上の留意事項
活動期間の予測は一回のマグマ上昇に基づくため、複数回の上昇が起きた場合はさらに長引くことがあります。マグマがさらに浅部へ上昇した場合、地震活動がさらに活発になることがあります。
*地盤の状況等により、さらに揺れが大きくなる場合があります。