伊豆新聞連載記事(2011年7月10日)
火山学者 小山真人
伊豆東部火山群の「地震活動の予測情報」が実際にどのように発表されるかを、2009年12月の群発地震を例にとって時間順にたどってみよう。12月17日の昼頃から始まった群発地震に先立って、ひずみ計の変化は16日の深夜に始まっていた。つまり、その時からマグマは上昇を始めていたのである。伊豆東部火山群では、こうしたマグマの上昇にともなうひずみ変化が群発地震に先立って毎回観測されるので、少なくとも群発地震が開始すること自体は予知できる(本連載第1部第127回参照)。
17日の夕方になると有感地震が起き始めた。この頃になると、ひずみ計の変化速度がどの程度かわかってくるため、予測情報の第一報が発表されることになる。前回述べたように、その中身には「最大地震の規模と震度」「震度1以上となる地震の回数」「活動期間」の3項目についての予測値が含まれる。
この第一報に引き続いて1日に1〜2回程度、定期的に予測情報の続報が発表され、必要に応じて予測値が更新されていく。2009年12月の場合は、17日の深夜と18日の朝に市役所で震度5弱を記録した地震(それぞれマグニチュード5.0と5.1)が発生した。こうした規模の大きな地震が発生した場合や、活動が急激な変化を見せた場合にも、そのつど続報が発表されることになっている。
やがて、ひずみ計の変化が小さくなり、20日にはほとんど動かなくなった。それにともなって群発地震の回数も減少した。これに応じて予測情報の最終報が発表され、主たる活動が終了したことが告げられる。ただし、活動の終息期に活動域の周辺でやや大きな地震が発生する場合もあるので、そのことに対する注意も呼びかけられる。以上が、「地震活動の予測情報」の大まかな流れである。
この予測情報の根拠となる東伊豆町奈良本のひずみ計の計測値は、伊東付近の地震の震源分布とともに、今年3月から気象庁のホームページ上でデータが公開されており(トップページの「気象統計情報」の「地震・津波」の下にある「伊豆東部の地震・地殻活動(速報)」)、誰もが自分のパソコンや携帯電話から、それらの変化を監視することが可能となっている。最初に述べた群発地震の開始に先立つひずみ計の変化も表示されるため、いまや誰もが群発地震の開始を事前に知ることができるのである。ただし、ひずみ計の変化は降雨などの原因によっても起きるので、それらを注意深く区別する必要がある。いずれにしても、こうした気象庁の実直なデータ公開姿勢に深い敬意と感謝を表したい。
2009年12月の伊豆半島東方沖群発地震の地震回数(毎時)とひずみの時間変化。気象庁が所管する伊東市鎌田の地震計と東伊豆町奈良本のひずみ計の観測値。
気象庁のホームページ上で公開されている東伊豆町奈良本のひずみ計観測値。グラフの下部に地震回数と降水量のグラフが併記されている。降水量との関係からわかるように、ひずみのグラフに表れている変化は降雨によるもの。