伊豆新聞連載記事(2011年7月3日)

伊豆ジオパークへの旅(56)

伊豆ジオパークの目標(16)ジオパークと防災(6)

火山学者 小山真人

 前回説明した伊豆東部火山群の「火山活動シナリオ」にもとづいて、気象庁から防災に関係した2種類の情報が発表されることになっている。「地震活動の予測情報」と「噴火警報と噴火警戒レベル」である。後者は、噴火の可能性が高まらない限りは発表されない。前回述べた通り、そこにまで至る確率は群発地震の開始時点から見て5%程度とみられる。一方、前者の「地震活動の予測情報」の発表対象となる浅い群発地震の発生確率は50%程度である。したがって、今後伊東沖で群発地震が起きた際、この情報を耳にする機会が増えるだろう。
 「地震活動の予測情報」が実際に発表されるタイミングは、群発地震がある程度活発になって有感地震が起き始めた頃であり、その具体的な内容は「最大地震の規模と震度」「震度1以上となる地震の回数」「活動期間」の3項目である。たとえば、「◯日◯時現在の観測データから予測される地震活動の規模等は以下の通りです。地震の規模と震度:マグニチュード5程度、震度4〜5弱程度、震度1以上の地震回数:200〜400回程度、活動期間:数日程度」のような形で発表される。
こうした予測がなぜ可能になったのかを説明しておこう。その原理をある程度理解しておけば、予測結果の正確な意味や限界も見通せることになり、防災行動に役立てられるからである。「地震活動の予測情報」の決め手となっているのは、東伊豆町奈良本(熱川の近く)の地下に設置されている体積ひずみ計という観測機器の測定値である。本連載第1部第127〜128回で述べたように、体積ひずみ計は、地下の岩盤にかかる力によって岩盤がどれくらい伸び縮みをしたかを測る機械である。
 伊東沖の地下でマグマが上昇を始めると、マグマの圧力が東伊豆町の地下にも伝わって岩盤を押しつけるため、ひずみ計の値が縮みを示す。この縮みの量と速度によって、どのくらいマグマが上昇したかを知り、そこから群発地震の規模や期間が予測できる。マグマ上昇の勢いが大きいほど周囲の岩盤に大きな力がかかるため、誘発される地震の規模や数も増え、継続日数も長くなる。このことから、岩盤にかかる力の変化、つまりひずみ計の値の変化から、群発地震の規模・回数・継続期間が予測できるのである。実際には、その予測方法は地震活動のデータも併用した複雑なものであり、ある程度のあいまいさも含む。しかし、過去46回分の観測事実を積み上げてきた結果、どうにか大まかな予測が出せるほどの実用化にこぎつけることができたのである。発展途上の手法であるため、予測が外れることもあるだろうが、どうか温かい目で見守ってほしい。

 

 

伊東沖でのマグマの上昇によって東伊豆町奈良本の地下でひずみ変化が起きるしくみ。


地殻変動(ひずみ計の変化)と地震活動のデータから群発地震の予測をおこなう流れ(気象庁による)。


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