伊豆新聞連載記事(2011年6月26日)

伊豆ジオパークへの旅(55)

伊豆ジオパークの目標(15)ジオパークと防災(5)

火山学者 小山真人

 伊豆東部火山群に適用された新しい防災システムは、この地域で過去に起きてきた数多くの群発地震と噴火の事例から作成された「火山活動シナリオ」を基礎とした点でも画期的である。このシナリオは、筆者も委員のひとりをつとめた伊豆東部火山群の火山防災対策検討会が作成したものであり、「伊豆東部火山群で予想される活動推移」と題して、気象庁が作成・配布する「伊豆東部火山群の地震活動の予測情報と噴火警戒レベル」のチラシ(本連載第53回参照)の裏面に図示されている。
 この火山活動シナリオの図では、左から右に向かって時間が流れる。左端にある「静穏」が普段の状態を表す。この状況下でいきなり噴火する可能性はほぼ皆無と言ってよい。他の多くの火山と異なり、伊豆東部火山群には定まった火口が存在しない、つまり地表への通路がないからである。1989年の噴火では新火口(手石海丘)が生じ、そこへの通路がいったんできたが、すでに20年以上経過したために冷えて閉じてしまったと思われる。
 群発地震の初期には、深い場所から浅い場所への震源の移動が起きる(火山活動シナリオ図の「深部からのマグマ上昇」)。これは、マグマが地下の岩盤を割って地震を起こしながら上昇するためである。上ってきたマグマは、地下9〜7キロメートルのやや深部にとどまるか(同図の「マグマ:やや深部に留まる」)、あるいは地下6〜3キロメートルの浅い場所にまで到達する(同図の「マグマ:浅部へ上昇」)。前者の場合も群発地震が発生するが、後者の群発地震のほうが活発であり、地表に近いために揺れの被害を及ぼすことがある。前者になるか後者になるかの確率は、過去46回の経験上、ほぼ半々(両者とも50%程度)である。
 浅部へ上昇したマグマの一部が、さらに浅い2〜1キロメートルのごく浅い場所にまで到達する場合がある(同図の「マグマ:ごく浅部へ上昇」)。この状態にまで至る確率は5%と低いが、マグマ自身が起こす震動である低周波地震や火山性微動も観測され、噴火の可能性が一気に高まることになる。もちろんこの段階に至っても噴火せずに終息する場合もあるが、噴火に至った場合には、噴火場所の違い(陸か海かなど)に応じて異なる特徴をもつ噴火現象が生じることになる(同図の「海底噴火」と「陸域での噴火」)。
 以上が伊豆東部火山群の火山活動シナリオの全体像である。防災対応としては、マグマが浅部へ上昇を始めた時点で群発地震の被害が予想されることから、「地震活動の予測情報」が気象庁から発表される。さらに、マグマがごく浅部へ上昇を開始した時点で噴火の可能性が高まることから「噴火警戒レベル」が引き上げられ、必要に応じて市役所から避難勧告や避難指示が出されることになる。しかし、群発地震の開始時点から見ると、噴火にまで至る確率は2〜3%程度という小さなものである。

 

 

伊豆東部火山群の火山活動シナリオ。群発地震の開始時点から見た、それぞれの場合に至る確率が示されている。


もどる