伊豆新聞連載記事(2011年6月19日)
火山学者 小山真人
前回示した伊豆東部火山群の「噴火の影響が及ぶ可能性のある範囲」の地図は、今後の防災対策の基本となる図なので、どのようにして作られたかを説明しておこう。
本連載第1部第127回で述べたように、伊東沖では1978年以来46回に及ぶ群発地震が断続的に発生してきた。この群発地震は、マグマが地下の岩盤をバリバリと割りながら上る際に発生するものである。つまり、震源の移動を注意深く監視していれば、マグマがどのあたりをどこまで上ってきているかがわかる。その場所は群発地震が起きるたびに微妙に異なっていて、市街地から離れた沖の場合もあれば、市街地近くの陸地にかかる場合もある。しかし、全体として見れば、ほぼ定まった範囲内におさまっている。
このことにもとづいて、まず「火口が生じる可能性のある範囲」を描いた。マグマが今後新たな方面に移動する可能性もゼロではないので、多少の余裕をもたせて少し範囲を広めにとってある。この範囲には陸と海の両方が含まれているが、水深の深い海底で噴火しても、高い水圧が幸いして爆発が抑えられるため、海上にまで破壊的な影響を及ぼさない。200メートル以深ならば普通は爆発しないが、これもやや余裕をとって500メートルより深い海底部分を除いた範囲を、「海上や陸上に影響を及ぼす噴火が発生する可能性のある範囲」とした。つまり、陸上に火口が生じたり、海面上に爆発的な噴煙が立ち上ったりするのが、この範囲内と予測される。
さらに、噴火場所の近くでは火山弾が飛んできたり、「ベースサージ」と呼ばれる横なぐりの噴煙が襲ってきたりする。こうした現象の影響が及ぶ範囲は、これまで世界各地で起きた同種の火山噴火での経験上、ほぼ2キロメートル以内におさまることが知られている。このため、「海上や陸上に影響を及ぼす噴火が発生する可能性のある範囲」の外側にさらに2キロメートルの余裕をとって「噴火の影響が及ぶ可能性のある範囲」を定め、その枠内を赤色で表示した。
次の噴火がどこで起きるかを事前に予測することは困難なため、結果的にやや広い範囲が「噴火の影響が及ぶ可能性のある範囲」とされている。しかし、実際にごく浅い群発地震が生じて噴火の危険が高まる場所は、その中のどこか一部(たとえば、図中に楕円で「想定火口域(例)」と示した程度の範囲)となる。したがって、その範囲から2キロメートル以内の地域が実際の「噴火の影響が及ぶ可能性のある範囲」となり、避難などの防災対応が行われることになる。
1995年9月以来の群発地震の震源分布と「火口が出現する可能性のある範囲」(伊豆東部火山群の火山防災対策検討会報告書に加筆)
伊豆東部火山群の「噴火の影響が及ぶ可能性のある範囲」(伊豆東部火山群の火山防災対策検討会報告書に加筆)