伊豆新聞連載記事(2011年6月12日)
火山学者 小山真人
本連載第1部第118〜131回において伊豆半島で起きる群発地震の歴史・現状・防災について述べた中で、「気象庁は数年前から、伊豆東部火山群の噴火に関する予測情報の出し方を検討中である」と書いた(第129回)。その後、気象庁が開発した予測手法は、国の地震調査委員会の手によって再検討された後に、「伊豆東部の地震活動の予測手法」報告書として2010年9月に公表された。タイトルには「地震活動の」とあるが、伊豆東部の地震活動は地下のマグマが引き起こしているため、報告書の実質的な中身はマグマ活動の予測手法と言ってよい。
一方で、こうした技術が開発されても、それを実際の防災に役立てるための公的な仕組みが別途必要となる。その検討をおこなったのが、静岡県が2009年1月に設置した「伊豆東部火山群の火山防災対策検討会」である。この検討会には、気象庁を始めとする防災関係機関のほか、伊東市と伊豆市も参加した。その最終報告が今年3月にまとめられ、それに呼応する形で気象庁は3月31日から伊豆東部火山群に対する「地震活動の予測情報」と「噴火警戒レベル」の適用を開始し、静岡県・伊東市・伊豆市はそれにともなう地域防災計画の改訂にそれぞれ着手している。
この最終報告の中には、「噴火が発生する可能性のある範囲」と「噴火の影響が及ぶ可能性のある範囲」の2つを明示した地図が掲載されている。これは、あくまで現在の群発地震の発生域が将来も変化しないと仮定した場合のものであるが、かつて筆者がその未整備を嘆いていた伊豆東部火山群のハザードマップ(本連載第1部第129〜131回)の原型がついに登場したと言ってよい。これによって噴火が起きそうになった場合の危険範囲が特定されたため、避難手順などを含む具体的な防災計画を練ることが可能となった。
つまり、伊豆東部火山群の火山防災は、これまでと全く異なる新しい段階に進んだのである。本連載の第13回で説明したように、伊豆東部火山群に対して導入された予測手法とそれにもとづく防災体制は、伊豆ジオパークのテーマのひとつ「変動する大地との共生」の代表的な具体例として世界に誇るものである。去る6月9日に伊東市内で開催された「伊豆東部火山群フォーラム」は、その現状を市民に周知するための行事であったが、参加しなかった方も多いと思うので、次回以降ここで改めてこの新しい防災システムの概要を説明しよう。
伊豆東部火山群への地震活動の予測情報と噴火警戒レベルの導入を伝えるチラシ(気象庁作成)
伊豆東部火山群で「噴火が発生する可能性のある範囲」と「噴火の影響が及ぶ可能性のある範囲」を示した図(気象庁作成)