伊豆新聞連載記事(2011年5月22日)

伊豆ジオパークへの旅(50)

伊豆ジオパークの目標(10)ジオパークの保全

火山学者 小山真人

 ジオパークは、大地の遺産の保全と活用によって地域振興をおこなう仕組みである。「活用」ばかりが注目されがちであるが、「保全」はもうひとつの柱であり、ジオパークの審査の際にも保全に関係する項目は重視されるため、すべてのジオパークとその候補地は確固としたジオサイトの保全方策を整備する必要がある。ジオパークに特化した保全のための国内法規は存在しないため、伊豆半島のジオサイト候補地の保全方策としては、既存の法令に加えて、それらが適用されない場所については別途条例などを定めていくしかない。
 現状としては、伊豆半島の一部(主として海岸と高山地域)が、富士箱根伊豆国立公園の普通地域、特別地域ならびに特別保護区に指定されており、自然公園法による開発規制を受けている。伊豆半島の海岸には海岸法にもとづく伊豆半島沿岸海岸保全基本計画、主要河川には河川法にもとづく河川整備基本方針と河川整備計画、渓流や急傾斜地については砂防関係法令にもとづく規制区域が策定されており、それぞれ保全・整備のプランが定められている。山林の一部は国有林、県営林、ならびに森林法にもとづく保安林などに指定され、山林および都市地域の一部は国土利用計画法、農地法、都市計画法、道路法や、静岡県土採取等規制条例、静岡県土地利用事業の適正化に関する指導要綱、あるいは関連する市町の条例などによって保全・整備が図られている。さらに、伊豆半島内の景勝地ならびに史跡の一部は、文化財保護法によって国や自治体による文化財の指定を受けている。
 しかしながら、ジオサイト候補地の中には、上記したいずれの規制も受けない箇所(民有地等)が多数含まれている。ジオパーク推進協議会は、こうした箇所においても貴重な資産を保全して後世に伝えるための方策を、自治体や住民の協力を得ながら策定・適用していかなければならない。
 このように書くと、保全がまるで難しいことのようだが、別に何のことはない。美しいと思っていた地層や岩石が壊されたり、人工的に手を加えられそうになった時、こうしたらまずいのではと誰かが気づいてくれればよいのである。県指定天然記念物でありながら隣接地の工事によって景観が台無しになった例(下田市柿崎の「偽層理」)、致命的な形で手が加えられたためにジオサイト指定が不可能となった例(伊豆市の万城の滝)など、人知れず破壊された貴重なジオパーク資産は枚挙に暇がない。そうした危険に気づいた方は、ぜひ事前に伊豆半島ジオパーク推進協議会事務局(伊東市役所内)まで連絡をお願いしたい。



ジオサイト候補地と直接関連する指定文化財(国指定と県指定のもの)

 

美しい柱状節理のひとつひとつがコンクリートで固められた万城の滝の一部(伊豆市)。こうなったジオサイトに何の価値もないことを、事前に誰かに気づいてほしかった。写真は静岡県観光局提供

 


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