伊豆新聞連載記事(2011年4月17日)

伊豆ジオパークへの旅(45)

伊豆ジオパークの目標(5)ジオパークをささえる専門家

火山学者 小山真人

 ジオパークにおいては、その学問的基礎を支える専門家の役割がきわめて重要である。こうした専門家は、ジオパークを学術面から継続的に支援し、その地域のジオに関するすべての学術的情報を把握・執筆・監修する役割を負う。その役割は、ジオパーク資産そのものの調査研究、多国語に対応した解説看板やガイドブックの作成・監修、ジオサイトの保全・安全・防災面での調査研究、普及講演会やガイド養成講座の講師、国内外の学会への参加と研究報告、日本や世界のジオパークネットワークの一員としての学術交流など多岐にわたり、多忙をきわめることとなる。これらは高度な知識とスキルを要する仕事であるため、ジオパークに常駐する専門家は博士の学位を有するか、それと同等の研究能力をもつことが必須である。
 ジオパークの構成資産は地学的なものを基礎としながらも多分野に及ぶため、ジオパークを支援する専門家は、地学をベースとした上で、学際的・分野横断的な能力を備える必要がある。その地域に自然系・文科系の両博物館があれば、こうした専門家がすでに複数名常駐している場合もあるが、残念なことに伊豆半島はそのような状況にない。たとえば、糸魚川ジオパークには3名の地学専門家が学芸員をつとめる「フォッサマグナミュージアム」(糸魚川市立)があり、伊豆半島と同時期のジオパーク認定をめざす箱根地域には館長以下20名の専門家・学芸員が常駐する「生命の星・地球博物館」(神奈川県立)と8名の研究員が常駐する「温泉地学研究所」(神奈川県立)があるなど、日本のほとんどのジオパークやその候補地域がすでに博物館やそれに準ずる施設を備えている。こうしたことと比較すれば、今後のジオパーク認定において伊豆半島は不利な状況にあると言わざるを得ない。筆者は伊豆半島ジオパーク推進協議会の顧問として今後も可能な限りの支援をするつもりであるが、当然のことながら大学の本務を優先せざるをえないため、常駐は無理である。
 これらの点を打開するためには、推進協議会の事務局に専門知識(とくにジオパークの根幹にかかわる地球科学の専門知識)をもつ研究職員を雇用することが必須である。実際に、こうした専門家が不在だった島原半島ジオパークや山陰海岸ジオパークでは、常勤職員として理学博士の学位を有する専門家を新規採用し、世界ジオパーク認定までこぎつけている。今日に至るまで色々な苦労があったが、ようやく伊豆半島でも若くて有能な研究職員をどうにか1名確保できたことを、ここで報告しておきたい。



ジオパークに常駐する専門家の義務と役割

 

島原半島ジオパークを支える専門家のひとり大野稀一さん。島原市職員で理学博士の学位をもつ。

 

 

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