伊豆新聞連載記事(2011年3月13日)

伊豆ジオパークへの旅(40)

伊豆ジオパークの構成(26)駿河小山ジオエリア

火山学者 小山真人

 前回までに伊豆半島内の12エリアの説明を終えた。残るひとつは、伊豆のたどった大地の歴史を考える上で欠かせない駿河小山(おやま)エリアである。このエリアは、同じ静岡県ではあるが、伊豆半島とはやや隔たった駿東郡小山町の東部に位置する「飛び地」である。しかし、ここには半島化する以前の伊豆と本州の間にあった海峡を埋めた土砂の地層が分布している。また、本州側の地層と伊豆側の地層がじかに接する姿、つまり伊豆と本州との「衝突現場」を直接目にすることもできるのだ(本連載第1部第25〜26回)。このエリア内のジオサイト候補として駿河小山東と生土(いきど)北の2地区を考えた。
 駿河小山東ジオサイトには、かつて伊豆と本州との間にあった海峡を埋めた砂利(じゃり)や砂・泥がつくる地層(足柄層群)が厚く分布しており、採石場や沢ぞいの崖で観察できる。驚くべきことに、たまった当時は水平に近い状態であったはずのこれらの地層は、その後の衝突による変形を受けて急傾斜し、中にはほぼ垂直に立っているものさえある。伊豆と本州との衝突によって、この地域がいかに大きな地殻変動を受けたかが実感できる場所である。鮎沢川の河原では、当時の海底にたまった厚い火山灰の地層も見ることができる。
 この海峡はやがて干上がって陸化し、現在の足柄山地へと姿を変えていったわけであるが、その過程でいくつかの河川が流れこみ、砂利の地層(駿河礫(れき)層)がたまった。生土北ジオサイトの林道ぞいの崖では、その南半分にこの砂利の地層、北半分に丹沢山地をつくる海底火山の噴出物を見ることができる。そして、その両者がひとつの断層を隔てて接している。崖の前には小山町による解説看板が建てられていて、この断層を「神縄(ルビ:かんなわ)断層」と説明しているが、正確には「塩沢断層系」と呼ばれる断層群の中のひとつである。
 この崖からさらに林道を北に上っていくと、この地域が陸となった後につもった数多くの火山灰を見ることができる。その中には富士山の火山灰のほか、木曽の御岳山(おんたけさん)の噴火で降りつもった御岳第1軽石(9万5700年前)、九州からはるばる飛んできた鬼界-葛原(とづらはら)火山灰(9万2000年前)や阿蘇4火山灰(8万7000年前)を見つけることができる(同55〜57回)。そして、これらの火山灰の研究によって、富士山がおよそ10万年前に誕生したこともわかったのである。



駿河小山エリアのジオサイト候補地とその見どころ。

 


足柄層群の砂利の地層。水平だった地層が今は直立している。

 

 

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