伊豆新聞連載記事(2011年3月6日)

伊豆ジオパークへの旅(39)

伊豆ジオパークの構成(25)大瀬崎・戸田ジオエリア(下)

火山学者 小山真人

 大瀬崎ジオサイトの西の海岸では、大瀬崎火山(本連載第1部第36回)が流した溶岩の積み重なりや、大瀬崎南火道(かどう)の断面が観察できる。火道とは、火口直下にあるマグマの通り道のことであり、中心にある岩脈から溶岩が何度も噴き出して外に流れた様子が、その後の浸食によってあらわになっている。こうした例は伊豆大島などの他の火山でも見られるが、大瀬崎南火道ほど見事なものは珍しい。大瀬崎の形が戸田の御浜岬とそっくりなのは、同じ向きの海流によって同じように砂嘴としてできたためである。なお、大瀬崎の先端には神池という淡水池があってコイなどが生息している。神池の水位が海水面よりやや高く、潮位にともなう変化をしないことからも、海とつながっていないことがわかる。神池付近にも大瀬崎火山の溶岩流が分布するため、おそらく神池の下にはしっかりした岩盤と不透水層があって海と分離しているのであろう。
 戸田の南に隣接する舟山ジオサイトの海岸には、達磨火山(同36回)の溶岩流の見事な積み重なりが観察できるほか、出所不明の白い軽石の層も見られる。同様な軽石層は、舟山の南に位置する伊豆市小土肥(おどい)海岸の達磨火山の溶岩流の間にもはさまれている(本連載第25回)。達磨・大瀬崎の両火山や、その間にはさまれた井田火山は、こうした軽石を噴出するタイプの火山ではないため、この軽石がどこから来たのかは今後の研究課題である。なお、大瀬崎から舟山までの海岸は、陸路で容易に行ける部分のみをジオサイトとしたが、それ以外の海岸の崖にも達磨・井田・大瀬崎の3火山の内部構造が連続的に観察できるため、貴重である。
 沼津市と伊豆市の境界付近に位置する真城山(さなぎやま)・金冠山(きんかんざん)ジオサイトと達磨(だるま)山ジオサイトでは、周囲の雄大な景観が楽しめる。西伊豆スカイラインぞいから西の戸田方面を見下ろせば、えぐられたような谷間の地形と、その出口にある戸田港の入り江の全体像を俯瞰(ふかん)することができ、かつての達磨火山の西半分が大きく浸食されたことを実感できる。また、西の修善寺方面にはなだらかに裾を引く地形が広がり、浸食される前の巨大な火山の姿を思い描くことができるだろう。金冠山や戸田峠の西にある「だるま山高原レストハウス」付近から北の沼津方面を見れば、やはり北に向かって裾を引く達磨火山の斜面の向こうに、駿河湾と富士山が遠望できる。また、そうした達磨火山の地形とは不調和にごつごつとした静浦山地が、古い海底火山の集まりであることも実感しやすい。



上空から見た大瀬崎と神池。

 


大瀬崎南火道。火口から噴き出そうとした溶岩が放射状に積み重なっている。

 

 

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