伊豆新聞連載記事(2011年2月27日)

伊豆ジオパークへの旅(38)

伊豆ジオパークの構成(24)大瀬崎・戸田ジオエリア(上)

火山学者 小山真人

 沼津市南部に位置する大瀬(おせ)崎・戸田(へだ)エリアには、陸上大型火山(達磨(だるま)、井田(いた)、大瀬崎火山など)の噴出物が分布しており(本連載第1部第36回)、海底火山時代の地層は見られない。このエリア内のジオサイト候補として、戸田(へだ)、井田、大瀬崎、舟山、真城山(さなぎやま)・金冠山(きんかんざん)の5地区を考えた。また、伊豆市に属するために本来は中伊豆北エリアの一部として扱うべき達磨山ジオサイトもここで扱う。
 戸田港の入口にある細長い御浜(みはま)岬は、砂嘴(さし)と呼ばれる地形で、有名な京都府宮津市の天橋立(あまのはしだて)と同じように海流の作用で土砂が運ばれてできた。御浜岬の先端から戸田港の入口をはさんで北の対岸にある崖に赤い帯が見られるが、これは崖の上部にある井田火山の溶岩流の熱によって、その下の地層が焼かれて赤く染まったものである。御浜岬から戸田港方面を見ると、戸田の町の背後に巨大な谷間があり、その背後に達磨山がそびえる景色が見事である。この谷間は、かつての達磨火山の西斜面が浸食によって大きくえぐられてできた(同36回)。戸田港はタカアシガニ漁でも有名である。タカアシガニは、プレートの沈みこみ境界が伊豆半島の西側にあるからこそ(同99回)、駿河湾という水深の深い入り江が形成されて生息できた生物であり、ジオパーク特産物の代表格と言ってよい。御浜岬にある駿河湾深海生物館(戸田造船郷土資料博物館に併設)ではタカアシガニなどの標本が多数見られるほか、その玄関には、1854年安政東海地震の津波のために下田港で被災し、戸田港に曳航される途中で沈没したロシア軍艦ディアナ号(同116回)の錨が飾られている。以上のような見どころの多いこの地域を、戸田ジオサイトとして一括した。
 この北に隣接する井田ジオサイトの海岸の崖では、井田火山の噴出物断面が観察できる。また、井田の集落は、大きな谷間の出口付近に立地していることに注目してほしい。この谷間は、井田火山の西半分が浸食を受けてできた。つまり、先に述べた達磨火山と戸田の町の関係のミニチュア版なのだ。また、集落のある平地の南端にある明神池は、戸田の御浜岬や次回で述べる大瀬崎と同様の砂嘴がつくった地形のなごりである。御浜岬と大瀬崎とは異なり、砂嘴の先端が閉じてしまったために、その中にあった入り江の一部が内陸の池として残ったのである。



大瀬崎・戸田エリアのジオサイト候補地とその見どころ。灰色の太線は主要な分水嶺。

 


上空から見た井田火山の浸食地形。谷の出口に井田の集落と明神池が見える。

 

 

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