伊豆新聞連載記事(2011年2月6日)
火山学者 小山真人
沼津・三島エリアは、行政区としては三島市西部、沼津市中部のほか、清水町全域と長泉町南部を合わせた範囲に相当する。このエリアの特徴は、海底火山と陸上火山の両時代の地層や地形が見られること、伊豆の火山だけでなく富士山と箱根山の噴火の痕跡も残ること、狩野川の洪水や駿河湾で起きる地震・津波と向き合ってきた歴史がわかることである。このエリア内のジオサイトとして次の候補を考えた。すなわち、鮎壺(あゆつぼ)の滝、三島、柿田川、箱根南西麓、大平(おおひら)、千本浜・牛臥(うしぶせ)山、静浦・内浦、香貫(かぬき)山、愛鷹山南麓、西浦の10ジオサイトである。
鮎壺の滝ジオサイトでは、三島付近の大地の基本構造を目の当たりにすることができる。JR御殿場線下土狩(しもとがり)駅の近くを流れる黄瀬(きせ)川にかかる鮎壺の滝には、厚さ10メートルほどの一枚岩の岩盤が見られる。これは、およそ1万年前に富士山から流れてきた溶岩流(三島溶岩)である(本連載第1部第78回)。岩盤の底には、かつてそこに生育していた樹木が立ったまま焼かれたことを示す溶岩樹型(じゅけい)の丸い穴が複数見られ、溶岩におおわれた褐色のローム層(陸上につもった土ぼこりの地層)も観察できる。滝の東方の市街地にある稲荷神社の境内には、三島溶岩の表面にある溶岩塚が保存されている。溶岩塚は、溶岩が流れる際に、先に冷え固まった部分が横から押された結果、割れて盛り上がってできたものである。
三島溶岩は、黄瀬川と大場(だいば)川にはさまれた広い範囲で市街地の地盤をなしており、たとえばJR三島駅北口付近の路上でも溶岩流の断面を見ることができる。この溶岩流内部のすき間を流れてきた地下水が、菰(こも)池や楽寿園(らくじゅえん)(国指天然記念物・名勝)内の小浜(こはま)池など三島市街地のあちこちでわき出し、源兵衛川に代表される小川の多い独特な街並みの景観と文化を築いてきた。楽寿園内にある溶岩流の表面には、溶岩が流れた際にできた縄状構造も観察できる。こうした三島駅周辺の溶岩流や湧水の見どころを一括して、三島ジオサイトと考える。サイト内には、火山神を祭る三嶋大社も鎮座している(同115回)。三島溶岩の湧水の中で最大のものは三島駅南西方の清水町内にあり、そこからわき出た大量の水は柿田川の渓谷を形づくって1キロメートルあまりも流れ、狩野川と合流している。この湧水と渓谷全体を柿田川ジオサイトとしよう。
沼津・三島エリアのジオサイト候補地とその見どころ。灰色の太線は主要な分水嶺
黄瀬川にかかる鮎壺の滝