伊豆新聞連載記事(2011年1月30日)

伊豆ジオパークへの旅(34)

伊豆ジオパークの構成(20)河津・東伊豆ジオエリア(下)

火山学者 小山真人

 東伊豆町の三筋山から南東に広がる緩やかな斜面(細野高原)は、かつての大型陸上火山・天城山の南東斜面が浸食され残ったものである(本連載第1部第35回)。古くからの山焼きによって森林の育成が抑えられているため、火山斜面の地形をよく観察できる。また、高原の一部は土石流におおわれて水はけが悪いため、そこに湿原(細野湿原、県指定天然記念物)が生まれた。三筋山の山頂まで登れば、前回述べた鉢ノ山スコリア丘の美しい地形を遠望できる。こうした魅力をもつこの高原地帯を、細野高原ジオサイトとして考えたい。
 海岸付近の稲取ジオサイトも魅力満点である。美しい弧を描く稲取岬は、天城山の溶岩流がつくった地形であり、海岸には溶岩の断面が見られる。また、稲取高校の北の道ぞいには伊豆東部火山群の稲取スコリア丘(同73回)があり、採石場跡の崖で火山の内部構造が観察できる。この火山から流出した溶岩が相模湾に流れこんだために、磯釣りの名所である黒根岬ができた。さらに、黒根岬の北の海岸では、天城山の溶岩が波による浸食を受け、「はさみ石」と呼ばれる芸術的な岩体がつくられた。
 稲取スコリア丘の北西には、同じ火山列に属する堰口(せきぐち)火山と川久保川火山があり、両者とその周辺をまとめて堰口・川久保川ジオサイトと考える。両火山とも採石場の跡地で内部構造が見られるほか、流れ出した溶岩も道路や川ぞいで観察できる。また、川久保川にかかる要害橋から見下ろす峡谷美も絶景である。この峡谷をつくる岩盤については今後の研究を要するが、おそらく天城山よりも古い「火山の根」の一部であろう。
 川久保川のさらに上流には、地すべりによって谷がせき止められてできたシラヌタの池(県指定天然記念物)があり、神秘的な森に包まれたモリアオガエルの生息地となっている。特異な地形・地質が特異な環境をつくり、特異な生物群を育んだ好例であり、ジオサイトの教科書とも言えるものである。
 熱川・北川ジオサイトでは、温泉を楽しむだけでなく、ぜひ両温泉の中間にある穴切(あなぎり)海岸の遊歩道を歩いてほしい。海岸に見られる岩石の多くは天城山の厚い溶岩流であり、その表面には流れた際にできた流理(りゅうり)の縞がきざまれている。入り江の崖には、波がうがった海食洞(かいしょくどう)もある。天気の良い日に北方を望めば、伊豆東部火山群の大室山スコリア丘と、そこから流出した溶岩がつくった伊豆高原と城ヶ崎海岸(同82〜87回、伊東ジオエリア)の優美な地形を楽しむことができる。

 

上空から見た三筋山と稲取岬。

 

稲取火山の溶岩が流れこんでできた黒根岬。

 

 

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