伊豆新聞連載記事(2011年1月23日)

伊豆ジオパークへの旅(33)

伊豆ジオパークの構成(19)河津・東伊豆ジオエリア(中)

火山学者 小山真人

 地熱や温泉による変質作用は、元の地層の特徴や構造をわかりにくくする反面、資源として有用な鉱石や鉱物をつくり出す作用がある。それらの採掘跡を、縄地(なわじ)ジオサイトと白田川源流ジオサイトで見ることができる。前者には、かつて縄地金山があり、菖蒲(しょうぶ)沢などの海岸には今でもさまざまな鉱物を含む鉱石が転がっている。後者には、火薬などの原料として硫黄を採掘した跡地があり、江戸時代からの長い公害訴訟の歴史もある。
 一方、観音山ジオサイト周辺の海底火山の噴出物は、ほとんど変質を受けていない。ただ、内陸にある事情から表面が草やコケでおおわれ、地層観察には経験を必要とする。海底火山灰の地層は削って加工しやすいため、多数の石仏が彫られて地層のくぼみに安置されており、観音山石仏群と呼ばれている。これらは、岩石の特質と文化・宗教が融合した結果として成立したものであり、ジオパークとしては第一級の資源である。かなり険しい部分もあって難儀するが、ハイキングコースも整備されている。その途中には、伊豆東部火山群の大平(おおだいら)火山の溶岩流も観察できる。
 鉢ノ山ジオサイトの目玉は、伊豆東部火山群の中では大室山に次ぐ大きさをもつスコリア丘である鉢ノ山と、そこから流出した溶岩がつくる地形・造形である(本連載第1部第66回)。プリン形をした鉢ノ山とその周辺は、「伊豆元気わくわくの森公園」としてすでに遊歩道が整備されているため、適切な解説看板をいくつか建てれば、立派なジオサイトとしてすぐにでも運用可能である。鉢ノ山の北のふもとの道路の切り割りには、美しい縞々をもつスコリア層や火山弾が観察できるほか、佐ヶ野川と奥原(おくばら)川ぞいを流れ下った二筋の溶岩流を、あちこちの渓谷や道路ぞいで見ることができる。これらの溶岩流が河津川に達してつくった扇状地にも注目してほしい。
 鉢ノ山から佐ヶ野川を少しさかのぼると、奥佐ヶ野ジオサイトにたどりつく。このサイトの魅力は、林道ぞいに見られる佐ヶ野川上流火山の真っ赤なスコリア丘の内部構造、溶岩流がつくった三段滝(同70回)、観音山東火山の山体や火口湖などである(拙著「伊豆の大地の物語」第81節)。
 大池・小池ジオサイトは、双子の火口(マール)である大池と小池の地形と噴出物(同61回)が見どころである。大池マールの凹地はパラグライダー場としても活用されている。両マール間の道ぞいには、噴火のさいに降りつもった厚い火山れきの地層を見ることができる。

 

佐ヶ野川遊歩道ぞいに見られる鉢ノ山火山の溶岩流。

 

佐ヶ野川上流火山の断面。

 

 

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