伊豆新聞連載記事(2011年1月16日)

伊豆ジオパークへの旅(32)

伊豆ジオパークの構成(18)河津・東伊豆ジオエリア(上)

火山学者 小山真人

 河津・東伊豆エリアは、行政区としては河津町と東伊豆町のほぼ全域に相当する。このエリアの特徴は、中伊豆北および中伊豆南エリアと同様に、分布する地層の年代幅が広いことである。伊豆最古の地層である仁科層群(西伊豆・松崎エリアのみに分布)を除くすべての時代の地層、年代範囲で言えば1500万年前以降の地層がそろっている。ただし、200万年前より古い海底火山時代の地層や岩石の分布範囲は限られている上、変質して元の特徴がわかりにくくなっているものが多い。このエリア内のジオサイトとして次の候補を考えた。すなわち、河津七滝(ななだる)、沼ノ川、梨本・湯ヶ野、峰・沢田、縄地(なわじ)、白田川源流、観音山、鉢ノ山、奥佐ヶ野、大池・小池、細野高原、稲取、堰口(せきぐち)・川久保川、シラヌタの池、熱川・北川(ほっかわ)の15ジオサイトである。
 河津七滝ジオサイトの最大の魅力は、何と言っても溶岩がつくる滝と渓谷の景観である(本連載第1部第70回)。七滝のうちの6つと、その上流の猿田淵の岩盤は、溶岩が冷え固まる時の収縮でできた美しい柱状節理が刻まれている。この溶岩は、国道414号線を越えた北東側の山中にある伊豆東部火山群の登り尾(のぼりお)南火山から流れ出たものであり、火口の周囲には火山弾を含む噴出物も観察できる。現状では火口付近の林道の一般車通行は不可であるが、将来的に遊歩道を火口付近まで整備・延長すれば、さらに味わい深いハイキングが可能となるだろう。美しい柱状節理をもつ溶岩流や火口付近の噴出物は、西隣りの沼ノ川ジオサイトの各所でも観察できるが(同65回)、アクセス道路などの整備が今後の課題である。
 梨本・湯ヶ野ジオサイトの最大の見どころは、かつての南洋に生息していた生物の化石を大量に含む梨本石灰岩である。今は奥原(おくばら)川のほとりにひっそりと眠る1400万年前のこの石灰岩は、中伊豆北エリアの下白岩石灰質砂岩と同様に、伊豆の北上を物語る物的証拠として貴重である(同9回)。また、この石灰岩を取り囲む地層は、海底にたまった火山れきや火山灰からできており、地熱や温泉水による変質を受けて緑色を帯びている(同8回)。湯ヶ野付近の渓谷に見られる岩盤も同種のものである。となりの峰・沢田ジオサイトには、こうした地層を「沢田石」として採石した石丁場遺跡が残っている。また、峰温泉の大噴湯公園は、吹き出す源泉を目の当たりに見られる点がすばらしい。

 

河津・東伊豆ジオエリアのジオサイト候補地とその見どころ。灰色の太線は主要な分水嶺。

 

河津七滝のひとつである釜滝(かまだる)。

 

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