伊豆新聞連載記事(2011年1月9日)

伊豆ジオパークへの旅(31)

伊豆ジオパークの構成(17)熱海ジオエリア

火山学者 小山真人

 熱海市全域に相当する熱海エリアには、谷あいに海底火山、背後の山地に陸上火山の地層が分布する(本連載第1部第34回)。陸上火山は多賀火山に代表される大型のものであり、伊豆東部火山群に属する小型の火山は分布しない。このエリア内のジオサイト候補として、魚見崎(うおみさき)、熱海、伊豆山(いずさん)、網代(あじろ)、初島の5地区を考えた。
 魚見崎ジオサイトは、熱海温泉街の南に隣接した錦ヶ浦および曽我浦と呼ばれている切り立った海岸を中心とする区域である。これらの断崖には多賀火山の噴火初期の噴出物を見ることができる。それらは、海底に流れた溶岩と、水とマグマが触れあって生じた爆発的噴火(水蒸気マグマ噴火)によって生じた地層である。このことから、陸上の噴出物が大部分を占める多賀火山も、その生い立ちは浅い海底から始まったことがわかり、貴重である。溶岩中には空気に触れて赤く焼けた部分も混ざっており、当時の陸地がそう遠くない場所にあったこともわかる。海岸の崖下には波食(はしょく)台・波食窪や、波がうがった海食(かいしょく)洞も見られる(同113回)。さらに特筆すべきこととして、海岸の崖にへばりつくようにホテルや観光施設が建てられているため、その敷地内のいたる所から見事な噴出物や地形をまじかに観察できる点が挙げられる。波食台の一部は、ホテルの建物や波打ち際の露天風呂などの基礎として利用されている。まさに「ジオ」と人間社会が見事に調和・融合した例であると言えよう。今後、適切な解説看板などを付加すれば、観光・宿泊施設と一体化したジオサイトとして世界に誇るものとなるだろう。
 熱海ジオサイトでは、急斜面に発展した大規模な温泉街の景観と丹那トンネルが見どころである。この急斜面は、多賀火山の山体の東半分が浸食されてできた地形である。本来は都市が築かれるはずのなかった険しい地形であるが、その美しい景観と温泉と、丹那トンネルの貫通によって一大観光都市が生まれた。隣接する伊豆山ジオサイトでは、見学可能な源泉である「走り湯」が魅力である。
 網代ジオサイトの海岸では、地下の割れ目に入りこんだマグマが冷え固まってできた岩脈が多数見られるほか、火口のわきに高温のまま降りつもったために赤く焼けた噴出物も見事である(同18回)。その沖に見える初島の平らな地形は、そこにあった浅瀬が隆起して島になったことを物語っている。この隆起は、周辺海域でくりかえされてきた関東地震や神奈川県西部地震(同100〜101回)が原因とみられている。

 

熱海エリアのジオサイト候補地とその見どころ。灰色の太線は主要な分水嶺。

 

火山噴出物がつくる地形と内部構造が美しい錦ヶ浦の景観。魚見崎ジオサイト。

 

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