伊豆新聞連載記事(2010年12月26日)
火山学者 小山真人
石廊崎・池の原ジオサイトの魅力は、海岸の崖に見られる美しい海底火山の内部構造だけにとどまらない。奥石廊ユウスゲ公園としても知られる「池の原」と呼ばれる小さな高原は、南崎火山と呼ばれる陸上火山がつくった地形であり(本連載第1部第38回)、陸路での散策が楽しめるほか、その火山体や溶岩流の断面が海岸の崖の上部に観察できるため、遊覧船ツアーの楽しみを増している。その遊覧船が発着する石廊崎港の細長い入り江の地形や、崖の途中にへばりつくように建てられた石室(いろう)神社にも注目したい。
この海岸線に沿うようにして活断層・石廊崎断層(同107回)が北西―南東方向に伸びている。断層に沿った直線状の谷間や、断層によって200〜300メートルもずらされた3列の尾根の地形を、石廊崎断層ジオサイトとして保全すべきである。この断層は1974年伊豆半島沖地震の際にも50センチメートルほど食い違ったが、残念なことにその痕跡を今は見ることができない。1930年北伊豆地震時の丹那断層のずれ(同104回)が保存されているように、どこかで断層を発掘して観察できるようにしたいものである。丹那断層と同様に、次の地震は早くても数百年後であることが判明した「安全断層」であるため、大地の営みを語る教材として積極的に教育や観光に活かすべきであろう。
海底火山の地層や岩石は、弓ヶ浜ジオサイトの海岸の崖でも観察できる。それらの一部は浸食を受けてエビ穴などの芸術的な形状をもつに至ったり、波がうがった弥陀窟(みだくつ)(国指定天然記念物)などの貴重な海食洞となったりしている。しかし、このジオサイトの目玉は、何と言っても800メートルもの美しい弧を描く白砂海岸・弓ヶ浜の美しさであろう。険しい崖が並ぶ南伊豆の海岸の中にこつ然と存在するこの大型の砂浜は、そこに流れこむ青野川の流域の広さと、流域中に海底火山灰の地層が多いために砂粒が供給されやすいことがあいまって形成されたものであろう。さらに、弓ヶ浜の地形を詳しく見ると、砂浜の背後にある平野の標高が低く、過去にそこが入り江だったことを想像させる。おそらく、かつては北東から南西に伸びる砂嘴(さし)が、まるで天橋立(あまのはしだて)のように入り江を区切っていたのであろう。地形図を眺めながら、そうした想像をすることはジオパークの楽しみのひとつである。
弓ヶ浜から、ゆったりと流れる青野川をさかのぼると下賀茂温泉ジオサイトに着く。ここの魅力は由緒ある温泉と、付近の山のあちこちにある、海底火山灰を採石した石丁場の遺構である。
奥石廊ユウスゲ公園付近の海岸の崖。上部の灰色の岩石が南崎火山の溶岩流で、下部の白い岩石は海底火山の噴出物。石廊崎・池の原ジオサイト。
上空から見た弓ヶ浜。