伊豆新聞連載記事(2010年12月19日)

伊豆ジオパークへの旅(29)

伊豆ジオパークの構成(15)南伊豆ジオエリア(上)

火山学者 小山真人

 南伊豆エリアは、行政区としては南伊豆町とほぼ一致する。このエリアの特徴は、何と言っても西伊豆・松崎エリアや下田エリアと並んで海底火山の産物が多いことであり、必然的にそれらがつくった美しい地層や造形が見どころとなる。その一方で、面積的には少ないが、陸上火山がつくった高原も存在し、険しい地形の中にほっとするような彩りを添えている。さらに、1974年伊豆半島沖地震の震源断層として知られる活断層・石廊崎断層の存在も特筆すべきである。このエリア内のジオサイトとして次の候補を考えた。すなわち、天神原・蛇石(じゃいし)、妻良(めら)峠、波勝崎(はがちざき)、奥石廊海岸、石廊崎・池の原、石廊崎断層、弓ヶ浜、下賀茂温泉の8ジオサイトである。
 天神原・蛇石ジオサイトの魅力は、陸上大型火山のひとつである蛇石火山(本連載第1部第38回)がつくった高原や緩斜面である。こうした平坦な地形は伊豆半島の南部では貴重であり、その一部は農地や集落として利用されている。高原上には大池と呼ばれる湿原もある。また、南伊豆町蛇石付近を流れる青野川上流には、その名も蛇石(へびいし)と呼ばれるヘビの形をした岩体がある。おそらく上流のどこかにある柱状節理(せつり)をもつ岩体の一部が崩れてきたもののようだが、詳細については今後の調査を必要とする。
 妻良峠ジオエリア付近では、先に述べた蛇石火山がつくる高原を遠望できるほか、西に傾きつつある伊豆半島の証拠と考えられる地形の東西非対称性(同114回)も実感できる。波勝崎ジオサイトの海岸には伊豆でもっとも高い200メートル級の岩壁があり、そこに見られる変質した海底火山の断面が見事な景観をなしている。こうした変質岩は、西伊豆町黄金崎の例からもわかるように黄色やオレンジ色に染まり、見た感じはきれいであるが、変質によって火山の内部構造は失われてしまっている。
 一方、奥石廊海岸ジオサイトの海岸の崖に広く見られる地層や岩石はほとんど変質を受けておらず、海底火山の内部構造がはっきりと観察できるために、西伊豆町の堂ヶ島海岸(同14〜15回)と同様に国際的な海底火山研究の場となっている。崖が急なために陸路で近づくことが難しく、あまり観光化はされていないが、将来の遊覧船ツアーが楽しみである。同様な海底火山の断面は、となりの石廊崎・池の原ジオサイトの海岸線の崖にも続いているが、こちらは石廊崎港からの観光船ルートがあるために見学しやすい。

 

南伊豆ジオエリアのジオサイト候補地とその見どころ。灰色の太線は主要な分水嶺。

 

奥石廊海岸の全景。右下の岬が石廊崎で、左上の岬が波勝崎。

 

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