伊豆新聞連載記事(2010年12月5日)
火山学者 小山真人
下田エリアは、行政区としては下田市とほぼ一致する。このエリアの特徴は、何と言っても西伊豆・松崎エリアや、後日述べる南伊豆エリアと並んで海底火山の産物が多いことであり、必然的にそれらがつくった美しい地層や造形が見どころとなる。また、海岸が隆起した証拠があちこちに残ることも特徴である。このエリア内のジオサイトとして次の候補を考えた。すなわち、白浜海岸、爪木(つめき)崎、須崎、吉佐美(きさみ)・田牛(とうじ)、下田港、蓮台寺(れんだいじ)の6ジオサイトである。6つすべてが下田市南部にあるのは、北部の研究が遅れているからであり、今後の研究の進展にしたがって下田市北部にもジオサイト候補地が現れるだろう。
白浜海岸ジオサイトの魅力は、白浜海岸に見られる石灰質砂岩の地層(本連載第1部第12回)と、三嶋大社に祭られた火山神「三嶋神」の后(きさき)にあたる「伊古奈(いこな)比〓(くちへんに羊)(ひめ)神」を祭る白浜神社(同115回)である。白浜海岸は、伊豆の1000万〜200万年前の地層の総称である「白浜層群」の名前のルーツでもある。
爪木崎ジオサイトには、地下に入りこんだマグマが冷え固まってできた美しい柱状節理(せつり)(県指定天然記念物)が見られるほか、地震性の隆起を示す海岸地形(同113回)も残されている。須崎ジオサイトの見どころは、海底を流れた土石流や溶岩流と、それらの間にはさまれる火山灰質の砂層である。土石流の地層には水で冷やされた構造をもつ水冷火山弾(同13回)が含まれ、砂層には波や海流の作用でできた美しい縞模様が刻まれている。
同様な海底火山の噴出物は、吉佐美・田牛ジオサイトの海岸にも広く分布している。さらに、波の浸食によってできた洞窟である海食洞(かいしょくどう)もあちこちに見られ、そうした洞窟の壁に隆起の証拠である化石層がへばりついている場所もある(同113回)。田牛の龍宮窟(りゅうぐうくつ)は、大型の海食洞の天井が一部崩れて、直径50メートルほどの天窓が開いたものである。同じでき方をした西伊豆町の天窓洞(てんそうどう)が有名だが、龍宮窟の直径は天窓洞の2倍以上あり、道路ぞいの入口から洞窟を通って天窓の下に立てる点が素晴らしい。洞窟の壁には、海底火山から噴出した黄褐色の火山れきが美しく層をなし、天窓の底を満たす青い海水とのコントラストが見事である。龍宮窟の裏の海岸には、大量の砂が海からの強風によって急斜面をつくっており、サンドスキー場として利用されている。
下田ジオエリアのジオサイト候補地とその見どころ。
吉佐美・田牛ジオサイト内の下田市田牛にある龍宮窟の内部。