伊豆新聞連載記事(2010年11月28日)

伊豆ジオパークへの旅(26)

伊豆ジオパークの構成(12)函南ジオエリア

火山学者 小山真人

 函南(かんなみ)エリアは、行政区としては函南町とほぼ一致する。函南町は、三島市と熱海市にはさまれた丘陵地とその西側の田方(たがた)平野の一部を占めており、東海道線や新幹線の丹那トンネルが通る場所としても知られる。ジオパークとしての函南町の特色は、何と言っても世界的に著名な活断層である丹那断層(本連載第1部第102〜106回)であるが、それ以外の見どころもある。函南エリア内のジオサイト候補として、田代盆地、軽井沢、丹那盆地、池ノ山峠、玄岳(くろだけ)、月光天文台、函南町役場、柏谷(かしや)の8つを考えた。このほか、伊豆の国市の北端部に入る韮山(にらやま)峠南ジオサイトもここで説明する。
 このうち最初の5つは、すべて丹那断層に関係したジオサイトである。田代盆地ジオサイトでは、断層盆地としての地形と、1930年北伊豆地震時の断層のずれを保存した火雷(からい)神社が見どころである。軽井沢ジオサイトには、断層によって1キロメートルもずらされた2つの谷間があるほか、断層ぞいで起きた「河川の争奪」現象によって空中に消えた谷の地形がわかる。丹那盆地ジオサイトの見どころは、断層盆地の地形と、北伊豆地震時の断層のずれ(国指定天然記念物)を保存した「断層公園」である。かつて丹那盆地の周辺は湧水が豊富でワサビ栽培がさかんだったが、在来線の丹那トンネル工事によって湧水が涸れてしまい、その補償金によって現在の酪農に転換したいきさつがある。こうした地質と地域社会との相剋(そうこく)・共存の歴史もジオパークの大きなテーマのひとつとなりえる。以上3サイト全体の地形景観を、伊豆スカイラインぞいにある玄岳ジオサイトから眺めることができる。また、池ノ山峠ジオサイトでは、丹那断層に沿う直線状の谷間の地形が観察できる。
 池ノ山峠ジオサイトから伊豆スカイラインを南に下った韮山峠南ジオサイトの崖では、伊豆の陸上大型火山のひとつである多賀火山(同34回)が流した溶岩の積み重なりを見ることができる。市街地の中にある柏谷ジオサイトでは、箱根火山の火砕流(同50回)がつくる台地に、古墳時代の人々が掘った横穴遺跡群(国指定史跡)を見ることができる。このほか、最近立て替えられた函南町役場の最上階の展望台は、北伊豆地域全体の地形を眺められる最良の場所である。また、月光天文台では星空の観察によって地球という惑星の立ち位置と素顔を見つめ直すことができ、地質関係の展示を見ることもできる。これら2つもジオサイトの仲間として加えたい。

 

函南ジオエリアのジオサイト候補地とその見どころ。灰色の太線は主要な分水嶺。

 

北側から見下ろした田代盆地。その向こうには丹那盆地と池ノ山峠が見える。

 

もどる