伊豆新聞連載記事(2010年11月21日)

伊豆ジオパークへの旅(25)

伊豆ジオパークの構成(11)中伊豆南ジオエリア(下)、土肥ジオエリア

火山学者 小山真人

 中伊豆南エリア内のジオサイト候補地の解説をさらに続けるとともに、いまや伊豆市に属することとなった土肥(とい)地区(土肥ジオエリア)の候補地についても述べる。
 中伊豆南エリアの地蔵堂ジオサイトの最大の見どころは、伊豆東部火山群の地蔵堂火山から流れ下った溶岩流にかかる万城(ばんじょう)の滝である(本連載第1部第71回)。また、滝の上流の道ぞいの崖で、溶岩流をおおう厚いラハール(火山性土石流)の地層や、火山体そのものの一部にあたるスコリア層も見られる。丸野高原ジオサイトでは、その名前の元となった丸野山火山とそこから流れ出た溶岩流(同51回)、伊豆東部火山群の陸上での最新の噴火である2700年前の岩ノ山溶岩ドーム(同93回)、天城火山の分厚い溶岩流がつくった広大な高原(同35回)などに注目すべきである。遠笠山ジオサイトでは、船原火山と並んで伊豆東部火山群最古とみられる遠笠山火山の地形と溶岩流(同42回)が見られ、山頂付近からは伊東方面にある矢筈山(やはずやま)(同94回)、一碧湖(いっぺきこ)(同52回)、大室山(同82〜87回)などの火山群が並ぶ壮大な景観を眺められる。
 土肥エリアは、船原トンネルの開通と無料化によって、中伊豆方面から比較的容易にアクセスできるようになった。土肥エリアの研究は他地域と比べて遅れているため、ジオサイトの設定も現時点では不十分にならざるを得ないが、小下田(こしもだ)、小土肥(おどい)、土肥金山、清越(せいこし)鉱山の4候補地を提案する。
 小下田ジオサイトの見どころは、伊豆の陸化後に噴火した火山によってつくられた地形と噴出物である(同39回)。とくに国道ぞいのなだらかな地形と、そこに立地した農地や集落に注目してほしい。小土肥ジオサイトの海岸では、陸上大型火山のひとつ達磨(だるま)火山(同36回)の溶岩流の積み重なりが見事であり、その間に出所不明の厚い白色の軽石層がはさまっている。土肥金山ジオサイトでは、かつての坑道の一部が保全・整備され、資料館も併設されている。近くには龕附天正(がんつきてんしょう)金鉱という別の鉱山跡もある。また、付近の山中では、南伊豆の南崎火山(同38回)のものと同様の「アルカリ玄武岩」という特殊な化学成分をもつ岩石が発見されている。船原峠越えの国道わきにある清越鉱山は、最近まで操業していたため坑道や施設が良い状態で残されているとみられる。保全措置をとった上で見学可能とすれば立派なジオサイトとなるだろう。

 

土肥ジオエリアのジオサイト候補地とその見どころ。灰色の太線は主要な分水嶺。

 

土肥金山の坑道の内部。江戸時代の採鉱の様子が再現されている。

 

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