伊豆新聞連載記事(2010年11月14日)

伊豆ジオパークへの旅(24)

伊豆ジオパークの構成(10)中伊豆南ジオエリア(中)

火山学者 小山真人

 中伊豆南エリア内のジオサイト候補地の解説を続けよう。湯ヶ島ジオサイトは、伊豆の1500万〜1000万年前の地層の総称である「湯ヶ島層群」の名前の元となった場所であり、渓流ぞいに見られる海底火山の噴出物と由緒ある温泉街が魅力である(本連載第1部第6回)。その南側には伊豆東部火山群の与市坂(よいちざか)火山から流れ出した溶岩が台地をつくり、その地形を利用して農地と集落が立地した点も注目すべきである。
 鉢窪山(はちくぼやま)ジオサイトは、鉢窪山―丸山火山列の噴火でつくられた多彩な火山地形と噴出物(同74回)が売りである。鉢窪山は、伊東市の大室山や河津町の鉢ノ山と並ぶ、伊豆屈指の美しいプリン形状を誇るスコリア丘であり、山頂には小さな円形の火口も残されている。ふもとから流出した溶岩が伊豆市茅野(かやの)の台地をつくり、その平坦面に集落と農地を成立させた上に、溶岩流の末端には柱状節理の美しい浄蓮(じょうれん)の滝ができ、とっておきの観光資源として活用されている。鉢窪山の南西と丸山の南では、両火山体をつくる美しく成層した赤色スコリアが観察できる。
 滑沢(なめざわ)ジオサイトの最大の魅力は、滑沢火山の溶岩がつくり出した景観である(同79回)。滑沢渓谷の底につづく滑らかな一枚岩は、谷を埋めて流れた溶岩であり、その表面には美しい節理(冷却時の割れ目)が刻まれている。すぐ下流にはエサシノ峰火山から流れ出た溶岩がつくる台地があり、その上に道の駅「天城越え」が建てられている。
 天城峠ジオサイトは、もともと旧道天城トンネルや八丁池・天城山への遊歩道が整備されていた場所であるが、そこにジオパーク的な要素も加えれば、さらに味わい深いハイキングが楽しめるだろう。山中のあちこちに見られる緑がかった固い岩は、海底火山から噴出した火山れきや火山灰が地熱や温泉で変質したものである(同8回)。それらの上に陸上大型火山のひとつ天城火山(同35回)から流れ出た厚い溶岩が何枚も折り重なっている。こうした溶岩の一部には、冷却時にできた芸術的な板状の節理が刻まれている。柱状節理の多い伊豆東部火山群とは異なり、なぜか天城山の溶岩にできる節理は板状になるものが圧倒的に多いが、こうした自然の芸術は惜しいことに誰にも鑑賞されないまま眠っている。なお、八丁池は、ちまたで言われているような火口湖ではなく、谷の最奥部が活断層のずれによって窪地と化し、そこに水がたまってできた断層湖であることが、最近の精密測量の結果明らかとなった。

 

湯ヶ島付近の渓谷ぞいに見られる地層。海底につもった火山灰や火山れきである。

 

鉢窪山から噴出したスコリア。美しい層をなしている。

 

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